大和ごころ
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第4章⑫ [「うたかたごころ」第4章]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第4章⑪の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 毛利元就♂…29歳。幼い頃、初恋の相手の愛子と結婚の約束をしていた。 
         死んだと思っていた愛子と、20年ぶりの再会を果たす
 伊達政宗♂…25歳。元親から愛子のことを頼まれ、西軍から守ることに。
         佐助の話と、本人との会話から、愛子の秘密に気付いた
 真田幸村♂…23歳。愛子の秘密を知らないまま、愛子を守ると決断。
         しかし、毛利と離縁した舞姫と、政略結婚を提案される
  



 これが、我の治めていた国か。
 夜。ふとカーテンの隙間から見えた月に、ふらふらと吸い寄せられた元就は、ガラス窓を開けてベランダに出、何をするでもなく目の前に広がる街の光を眺めていた。
 鍵の開け方を教わったわけではなかったが、何となく構造は分かったので、簡単に開けることができた。外の見える窓があり、しかも抜け出そうと思えば容易にそれが叶う部屋で、自由を許してくれることはありがたい。しかし、いざこうして外の景色を目の当たりにすると、己に行く当てなどないことを、まざまざと突きつけられる。
 これが、我の治めていた国か。
 元就は、もう何度目か分からないこの言葉を、再び胸のうちにぽとりとこぼした。
 大内・尼子という中国の二大勢力に阻まれた、毛利という小国。だが、その毛利の家に戻ることすらも叶わなかった放浪時代、小さな集落で民百姓らに紛れて生活していたのは、ほんの二十年前だ。その当時の己といえば、薪を担ぎ、寺の登司(とうす ※南厠)を清め、食せる草や実を採って帰るという暮らしで、「城持ち次男」の矜持など保っていては、飢えて野垂れ死ぬのは必至。それでも、ひたすら田畑を耕していた民の生活は、そんな松寿丸の目から見ても実に質素に映った。そこへきてあの震災。村ごと土砂に埋まり、彼らに残った物は己の身ひとつだったのだから、民らは途端の苦しみであったに違いない。
 ところが今、目の前に広がる平民達の家屋は、もはや小さな城だった。
 それも十や二十ではない。緩やかな丘陵をなぞるように立ち並ぶ家々は、遥か先にある丘の頂上にまで達し、その背後に浮かび上がる明かりで、稜線の向こう側にも広がっているのが分かった。これは、万の石高をとる大名の城下町の規模を、遥かに越えている。
 中国の覇者となった己ですら、このような光景は見たことがなかった。しかもこれが、昨日まで己が治めていた安芸であるなど。否、もはや安芸、ではなく、広島、だが。
「これが本当に、我の治めていた国なのか」
 今度は声に出してみた。ふと感じた、背後の気配への配慮、というわけではないが。
「ここはもはや、貴殿の国ではござらぬ……と、無礼を承知で……申し上げまする」
 お許しを、と続いた声が床に落ちたので、彼が頭を下げたのが分かった。
「いや……そなたが、正しい」
 これまで他国の武将、しかも己の国への潜入を試みた者を、貴様、という呼び名以外で声をかけたことはない。現にこれまで、彼と顔を合わせるその度に、元就は彼を、貴様、と呼んでいた。だが、この戦国一の兵(つわもの)と謳われる甲斐の槍使いは、元々の性根がよほど澄んでいるのか、そのことで己に対し嫌な顔を見せたことがない。
 そういう男だと心得てしまっていたからか、もはやお前の国ではない、という言葉に嫌味を感じないどころか、元就の身を案じたそれとして、するすると心に染みこんでくる。
「関東とこの地の距離を、一刻余りで行き来出来る時代にござる。愛子殿に申し伝えれば、やがてこの地へと遊山(ゆさん)がてら訪ね戻ることも叶いましょうぞ。ただ今は……」
「案ずるな、真田。出て行ったりなど、せぬ」
 遮るついでに、続く言葉を飲みながら尚も己を案じているらしい幸村へ、重ねて問う。
「そなたと初めて会うた時、愛子は如何(いか)にしておった」
 己が時代を再び飛び越えた、と愛子が知ったのは、幸村と顔を合わせたその時だったと聞いている。そしてしばらくの日々を、明かり窓もない座敷牢で過ごしたとも。
「昼は気丈に振る舞っており申したが……夜は……泣いておられた……」
 住み慣れた地から何の前触れもなく、たったひとりで二度に渡って引き離された愛子。
 百戦錬磨の己ですら、今現在途方に暮れているのだから、泣くなというほうが無理な話。
「そなたに落ち度はなかろう。故に、我に頭を垂れるには及ばず」
「落ち度ならあり申した。あの時の愛子殿と同じ境涯(きょうがい)に身を置いて、己のしたことがいかに惨(むご)いことであったか、今になって心身に刺さるのでござる」
「なれど、愛子は我にこう言った。そなたには世話になった、とな」
 その言葉に、幸村がぎりっと歯をかみ締めたのが分かった。戻れるのであれば、愛子と出会う前へと戻りたい、その幸村の悔しさが、背中越しでも分かるほどに。
 そこへふと、遠くの空からごうという音が聞こえた。出所らしい場所からは、星のように輝く光が規則正しく点滅を繰り返しながら、一直線に空を翔け上がっていく。飛行機だ。
「愛子殿から、雲の上とは五百を数えるまでに体が凍る所で、息苦しさに至っては水の中の如きだと伺い申した。そして、時に厚い雲の中をあの飛行機なるもので飛ぶと、まさに時化に飲まれる小船同様に弄ばれ、時には命の危機に見舞われることもある、と」
 幸村の言葉に元就は、飛行機の点(とも)す光を双眸で追う。そして、己の智を超える世界へと、今まさに繰り出そうとしている、城のような鳥の行く末に想いを巡らした。
「花が咲き、緑が芽吹き、鳥が歌う世界とは、この世のごく一部だとも教わり申した。なればこそ、斯様な場所に己がいる喜びを見失うことなく、深き感謝の心が生まれる、と」
 天空の過酷さを知る愛子だからこそ、時を越えても尚、草木の踊る大地に転がされたことが、実に幸運であったと感じた、ということか。それが例え、史上稀なる乱れ世でも。
「いかにも……飛び越えた時の先が、海の中であったならば、愛子や猿飛ならばともかく、鎧を纏っていた我らはまず助からなんだ」
 文字通り翼を持つ船に乗り、己の想像しうる「この世」というものの端から端までを、それこそ嵐の中でも行き来するという、愛子ならではの発想だ、と元就は苦笑した。
 それにしても、嵐の海に船を出す船乗りはいない。天(あま)翔ける船乗りが女を用いて、いったい何故(なにゆえ)そんな雲の大波に繰り出すのか。その船乗りのひとりが、二十年も焦がれた愛子であることを差し引いても、元就はどうにも解せなかった。
 しかし、それは語る幸村も同じだったようで、
「多少の嵐なら、飛行機なるものは断じて負けぬ、と後に愛子殿は申しており申した」
 わずかに首を傾げた元就の疑問に、さり気なく答えた。
「なれど、某は思うたのでござる。嵐に負けぬ船を作った物作りの達士、そして嵐でも飛ぶことを厭わない天(あま)の船乗りこそ、船にも勝る強靭な魂の主(ぬし)であると」
 成程。だからこそ、見知らぬ世に突如として放り出されても己を見失うことなく、その強さが、帰るべき港に己を導いたということか。
「我らも……そう在らねばな……なれど」
 己ひとり強く在るだけでは、縁という偉大なる助力なくしては、それは達し得ないもの。
「なれど……愛子が今の世を無事に歩むことが叶うのも、前田や島津、立花の助けなくしてはありえまい。あの乱世においても、愛子が先に出会った武士(もののふ)が……」
 もし己であったならば。己は、愛子を守ろうとしただろうか。
 心(うら)病んでいた己のことだ。疑い、裏切られることを恐れて、駒のひとつと見なすことを己に課したかもしれない。再会時、己が愛子を、昔の素直な彼女のままだとすぐに信じることができたのは、愛子が愛子らしく振る舞える状況にあったからこそ。
 だがもし、それが叶わぬ時と場所での対面であったなら、不信を拭えないまま最悪は、
「自ら、手にかけることとて……考えたくもないがな……」
 そしてただひとりで四百年の時を越え、守る国をも失えば、恐らく今頃は自害していた。
「だが、縁も所縁もないはずの愛子を、そなたらは生かしたどころか、命懸けで守った」
 そなた、ではなく、そなたら、と振り返る元就。ベランダに佇む己からは見えないが、窓の両脇を縁取るように寄せられたカーテンの片方が、風もないのにわずかに揺れた。
「俺は何もしてねぇ。悔しいが半年の間、ずっとあいつを守ってたのは、真田と猿飛だ」
 それまで、カーテンのすぐ横に黙って立っていた男が、そう静かに苦笑する。
「何を申される、政宗殿。国主である貴殿が、単身軍を離れられたことは異例でござる。将が己を人質として差し出すは前例があるにしても、家臣をひとりも付けぬなど……」
 幸村はカーテンに隠れた壁の向こう側に、半ば諌めるような目を向ける。
「Ha! 愛子のために手前ぇを囮にして、俺を撒こうとしたアンタには言われたくねぇ」
 そのやりとりに、元就はそうか、と思い至った。何も彼らは協力して愛子を守っていたわけではない。現に元就が愛子と再会を果たした時は、彼らは互いに得物を手に対峙していたのだ。安芸へ至るまでにも奪い合いがあったとて、何ら不思議はない。
 だが、彼らは互いに認め合っていた。だからこそ、好敵手が守る者を無闇に傷つけることはしなかった。これがもし徳川と石田であったなら、愛子は殺されていたかもしれない。
「礼を言う」
 己ですら疑ったかもしれない愛子を、無条件で信じ守った彼ら。元就の謝辞に彼らは何も言わなかったが、政宗を視界の端の捕らえている幸村の表情が、わずかに柔らかくなったのを認め、政宗が静かに口角を持ち上げたことが分かる。
 誠の武士(もののふ)とは何たる清々しき者かと、同じ侍であることを元就は誇った。そして、己も武士であることを見失うべからず、と元就は心に刻んだ。いつの世にいても、決して己を見失わなかった、あの強く愛しいおなごのように。

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