大和ごころ
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第4章⑰ [「うたかたごころ」第4章]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第4章⑰の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 戸隠(とがくし)かすが♀…25歳。Japan Air の地上係員で、愛子の同期
 真田幸村♂…23歳。愛子の秘密を知らないまま、愛子を守ると決断。
         しかし、毛利と離縁した舞姫と、政略結婚を提案される 
 猿飛佐助♂…29歳。真田幸村に仕える上忍
 毛利元就♂…29歳。幼い頃、初恋の相手の愛子と結婚の約束をしていた。 
         死んだと思っていた愛子と、20年ぶりの再会を果たす

 島津義弘♂…60歳手前。九州出身の元特別救助(レスキュー)隊員。
         広島を離れ、関東で自分の喫茶店を開業した
 前田慶次♂…26歳。愛子の幼馴染。愛子と交際していたが破局。
         フリーター。今は島津の喫茶店で働いている
         ※髪型は後ろでひとつに縛っているが、肩にかかる程度の長さ
 前田まつ♀…30代前半。慶次の叔母 
 伊達政宗♂…25歳。元親から愛子のことを頼まれ、西軍から守ることに。
         佐助の話と、本人との会話から、愛子の秘密に気付いた
 長曾我部元親♂…28歳。8年前に元服し、家督を継いで国主に。
            孫市の昔馴染みであり、政宗とも交友関係にある       
 
 


 かすが達が島津の店に到着したのは、日が少し傾いた午後。日曜ということもあり、ソファー席でコーヒーを飲みながら読書をするなど、くつろいでいる客が多い時間だった。
「愛子!」
 先に到着し、島津に政宗らの紹介を済ませていた愛子が、店内に慌ただしく入ってきたかすがを見るなり、久しぶりの再会に感極まって抱きついた。
「かすがぁ! うわぁぁん! もう会えないかと思ったよぉ!」
「よかった……本当によく無事で帰ってきた。ずいぶん日に焼けたな。髪も伸びている」
 二、三日前に会った時とは違う、明らかにひと夏を過ごしたと分かる愛子の褐色の肌。その姿見れば、戦国時代で半年を過ごしたという彼女の言葉を、もう疑いようはなかった。
「か……かすが……殿」
 恐る恐る、とでもいうふうに、抱擁するふたりに近づいてきた男がひとり。
 首元には、五円玉のような古い銭を六枚連ねた、チョーカーのようなものをかけている。
「六文銭……真田……さ、真田幸村!」
「い……いかにも。某を覚えていらしたか」
「は?」
 噛み合わない会話に眉を寄せるかすがと、初対面のはずの彼女の名を幸村が呼んだことに驚く愛子。戸惑うふたりの様子に幸村が首を傾げると、彼女たちの背後から声がした。
「違うよ、大将。その人とあのかすがは別人だ。あ、因みに俺様は本物だから」
「佐助! 無事であったか! よかった!」
 続いて入ってきた懐かしい腹心の顔に、幸村は思わず相好を崩して彼の名を叫んだ。
「あのさ……その、大声で俺様の名前を呼ぶのは……まぁ、いっか」
 どうせ俺様、忍失業っぽいし、と佐助は苦笑する。例え忍としてではなくとも、無事再会に至った主が、己をまだ必要としてくれていることだけで、佐助には充分だった。だが。
「猿、貴様、愛子の傍に寄るな」
「え? 何? いきなり」
 さらに後ろから慶次と、まつ達の一行が入ってきたので、佐助が入り口付近から避けようと愛子に近づいたところで、何故か元就が凄い形相で佐助を牽制した。何事かと見れば、
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
 と頬を膨らませてこちらを睨む愛子を、目線だけでちらりと示した幸村が、
「すまない、佐助。その……お前が……最初に愛子殿に検分作業を行っていたことを……」
 真っ赤な顔で眉をハの字にしている。どうやら、洗いざらい喋ってしまったらしい。
 忠義を誓った主との、感動の再会からわずが1分で厄介事に巻き込まれるとは。その安定の主のやらかしっぷりに、佐助はこめかみを抑えて、あんたって人は、と唸った。

 全ての客が会計を済ませたあと、島津が昨日から店内に告知していた、日曜午後臨時休業のポスターを扉の外に貼り付け、愛子はその間、店のパソコンを借りて調べ物を始めた。
「成人した人が戸籍を取得するのって、やっぱり簡単じゃないんだ……当たり前だけど」
 これでは彼らは、保険証や資格免許の取得はおろか、アルバイトをすることもできない。
「結婚資金の貯金もあんまり貯まってないし……6人もどうやって養ったらいいの……」
 途方に暮れる愛子の背を見て顔を見合わせる武将達に、島津がこちらの制度を話した。
「愛子殿の嫁入り資金を食い潰して生き長らえるなど、武士の恥にござる。何とかせねば」
 戸籍を持たない自分達にとっては、ここがいかに生き辛いか。かいつまんだ説明は愛子からも聞いていたが、仕事を得ることもできないと分かった幸村達は、改めて困惑した。
「俺や元親みてぇに外見が目立っちまってたら、働くどころか出歩くこともできねぇな」
 そう言う政宗は、愛子がドラッグストアで買ってきた、応急用眼帯とガーゼを右目に当てている。だがこれも、ずっと着用していればやはり変に思われるだろう。だが政宗らにとって幸か不幸か、こちらの世は戦もなく医学も発達しているため、隻眼の者は少ない。
 愛子もかすがも非正規雇用だが、職業柄、雇われている会社は密入国関係の取り締まりが特に厳しい。仮に武将達がどこかで不正に仕事に就いたとして、戸籍を取得していない人間であることがばれれば、愛子やかすがは下手をすれば解雇だけではすまない。
「そんこつなんじゃが……皆でおいのこん喫茶店を手伝うっちゅうんは、いけんかの」
 もう最初からそのつもりだったのか、笑って提案をする島津に、慶次が仰天した。
「え? でも、じっちゃん。どうやって給料払うの? それに6人も人増やしたら……」
「給料は払えん。そん代わり、食事と住む所の心配はせんでよか。こいでも独身貴族じゃ」
 あの豪傑武者だった鬼島津とは思えねぇ、と同じく鬼を名乗っていた元親は目をむいた。
「妻帯もしねぇで飲み屋をやってるってだけでも仰天したのによ。あんたが貴族とはな」
「はっは! そういうことじゃなか! じゃっどん、慶次君の言う通り、接客と厨房にはもう人がおるからの。6人が毎日働くには、こん店はちぃとばかし狭か。そいでじゃ」
 そこで、愛子と慶次に向き直った島津は、黙って話の続きを待つ武将達を見やる。
「慶次君と愛子ちゃん。このうち誰かに家事を頼んで、報酬としてたまに昼飯をおごってやってくれんかの。おいも6人いっぺんに面倒見るには、ちぃと懐の都合が悪うての」
「え? まぁ俺は別にいいけど……でも武士の人たちに家政婦みたいなことなんて……」
 身分が高いだけではない。群雄割拠の乱世において、名を残すだけの名将の彼らだ。
「それに……俺じゃぁ、この人達にしてみたら、やっぱりまだ信用はできないじゃ……」
 そう言って小さくため息をついた慶次は、佐助のいるほうにわずかに視線を泳がせた。
 ぎくしゃくした彼らを、ずっと目の当たりにしていた元親が、幸村に目配せをする。幸村はすぐにその意を理解したのか、咎めるような眼差しを佐助に向け、慶次に頭を垂れた。
「前田殿。佐助がこれまで、随分と失礼な態度をとった様子。誠に忝(かたじけな)い」
「え……いや、別にそんな……いやぁだって、初対面なら仕方ないし……」
 自分よりも若いとはいえ、あの歴史的武士(もののふ)の真田幸村に頭を下げられて、慶次は慌てた。そんな仰々しく謝られることではない、と思いながらも、主が頭を下げているのに、何故部下である当の本人の佐助が謝らないのか、少々腑に落ちない。すると、
「慶次君。恐らく初対面であるとか、そういうことじゃなか」
 慶次の内心を見抜いたのか、島津が慶次に穏やかに笑って、彼のコーヒー入れ直した。
「おいがまだ現役で署に勤めとったころ、自衛隊の知人にたまたま聞いたんじゃがの。戦場で敵か味方かわからんもんに出会うた時は、どんな親切な人でも馴れ合わず、いつでも逃げられる距離を保つんが鉄則なんじゃっど。敢えて馴れ合って探りを入れるっちゅうのは、よほど逃げられる自信がある時だけっちゅう話じゃ。こん人も軍人さんじゃろ」
 島津は、それとなく全体を見渡せる位置に立ち、幸村の背を守っている佐助を見やった。
「逃げ方も分からん状況で、しかも仲間が同じ状況にあると分かっちょる時は、自分が、そん鉄則を心得ていることを相手に分からせて、妙なことをさせんようにするんじゃと」
 慶次は、これまでの佐助の行動を思い出して、とあることに思い至った。
「そういえば……上田城でまつ姉ちゃんから電話がかかってきた時……」
 まつが佐助を、人を殺すことを生業にもしている、と電話越しで慶次に警告した際、その音声を拾った佐助が、自分を人殺しだと言っても構わない、と言った。それまではどちらかといえば飄々としていた佐助。思い起こせば、彼の態度はそこから変わってしまった。
「ただ気分を害しちゃったのかと思ってたけど、あれは俺に妙なことをさせないため……」
「前田殿、某に少し補足をさせて頂けるか。言い訳など、見苦しいことを承知のうえ故」
 いいよ言わなくて、と面倒そうな顔をする佐助を、幸村は目線だけでやんわりと制する。
「もし佐助が己の身ひとつであったなら、そこまで頑(かたく)な態度にはならなんだかと。佐助が一番恐れていたのは、己が人質となることで某の身動きが取れなくなること」
 人質、という言葉に、慶次だけではなく、まつやかすが、愛子までが目を見張った。
「利家殿の元には某がおり申した。もし慶次殿やまつ殿が、我らを警戒してどこかへ突き出す場合は、某の部下である佐助を人質にすれば、利家殿が某を意のままにするは容易うござる。佐助が恐れていたのは、そういった事態。方々(かたがた)に悪意なきことは今ならば承知しており申すが、疑り深きは乱世に生きる者の性(さが)にござる故」
 どうぞ、ご容赦頂きたく、と改めて慶次とまつへと、テーブルに手を着いた。その彼の背後で、それまで壁に背を凭れて腕を組んでいた佐助が、ふと音もなく壁から離れた。
 そして、流れるような動作で片膝を折り、幸村に倣って視線を己の膝元に落とす。
「……悪かった……無事に大将のもとに届けてくれたこと、礼を言う」
 鏡池のように、しんとした静寂の中、炭火のように垣間見える、佐助の主への熱い想い。
 この忍は、己の命の全てを主・幸村に捧げいている。それが、手に取るように分かった。
 これまで時代劇で、忍者役の黒装束をまとった役者が、同じ所作で主に膝を折るシーンを何度も目にしている。が、慶次やまつらは、これが本物の礼節か、と思わず感極まった。
 右も左も分からぬ世界においても、揺るがない佐助の忠義。
 武人の主従なる関係は、現代人の想像をはるかに超えるものだった。

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