大和ごころ
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第5章-幸村編-⑭ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-⑭の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。
 伊達政宗♂…25歳。島津の店では主に厨房を手伝っている。
          眼帯はドラッグストアで買った物に替えている
 戸隠(とがくし)かすが♀…25歳。Japan Air の地上係員で、愛子の同期
 片倉小十郎…Japan Airの名操縦士。愛子とは一緒に乗務することがある




 かすがは焦っていた。アパートは目前。かつて先輩が恋人の彼を引き止めた、まさにその場所で、ひたすら鞄の中をかき回す。鍵が見当たらないのだ。キーケースはあるのに、家の鍵が付いていたはずのフックが、留め具から外れていて、フックごと鍵が消えている。
「多分奥にありますよ。万一、鞄から鍵だけが落ちていたら、音ですぐ気付くでしょうし」
 そう励ます小十郎は、携帯電話のカメラを起動し、ライトを点けてかすがの鞄を照らしてくれている。だが、申し訳なさと恥ずかしさと、家に入れない焦りは膨らむばかりだ。
「あの……遅くなってしまいますから、片倉さん、どうぞお戻りください」
 私は大丈夫です、と言いつつも、安心させる笑顔のひとつもできない自分が情けない。
「あぁ、私のことならどうぞご心配なく。第一、ここにあなたを置き去りにはできません。それに、こういう探し物は、本人よりも当事者以外の人間のほうが見つけやす……あ」
 何かを思い出したように、突然自分の携帯をかすがに渡した小十郎は、自分の鞄をそさくさと開くと、かすがのタオルを取り出した。鎌倉で飲食店に入るとき、相合傘をしたせいで濡れた小十郎の服や鞄を拭くのに、かすがが貸したものだ。拭いたら少し汚れてしまったので、気にした小十郎が、洗ってから返す、と申し出て、自分の鞄にしまっていた。
「あった! すみません、ありましたよ、かすがさん」
 かすがが小十郎の携帯のライトをかざすと、タオルの合間から光がきらりと反射した。
「申し訳ない。犯人は私だった」
「とんでもないです! ありがとうございます! 落としてなくて本当によかった」
 かなり早い段階でキーケースから外れていたらしい。鍵に付いていたフックは輪の部分のつなぎ目が大きく開いていた。鞄もだが、タオルからよく落とさなかったと思う。
「あ、携帯の電池が……」
 長いことライトを点けていた影響か、携帯から電池切れを知らせる警告音が鳴り始めた。
「すみません、私のせいで……あの、もしお時間がおありでしたら、上がってください」
「いえ、お借りしたタオルに入っていたわけですし、半分は私の責任でもありますから」
「でも……」
 しつこいだろうか。かすがは不安げに小十郎を仰ぎ見た。お詫びの気持ちがあるのも本当だ。けれどそれ以上に、やはり引き止めたいという気持ちが、かすがの中にどうしようもないほど膨れ上がっていた。暗闇の中、鍵をなくした不安。置き去りにせず、そばにいてくれたことが、申し訳ないと思う反面、どれほど心強かったか分からない。
「もし片倉さんが帰ってしまっていたら、鍵は絶対見つからなかったですから……」
 小十郎が持っていたのだから、それも事実だ。
 俯くと、小十郎の腕の袖が目の前にあった。引いてしまおうか。あの先輩のように。
「では……」
 触れようか、と動かしかかったかすがの右手が、小十郎の声でぴくりと反応する。
「お言葉に甘えて……少しだけ。キーケースもそのままでは困るでしょうし」
 ペンチか何かがあれば、お詫びに直しましょう。その優しい声音に顔を上げる。
 穏やかな小十郎の微笑み。その向こうで、ひとつの影が遠ざかったような気がした。あれはかつての自分だろうか、とぼんやり思いつつ、かすがは小十郎を部屋に案内した。

 その約2時間後。
 愛子と政宗の帰宅を待っていた幸村は、窓ガラスの向こうに耳を向けていた。静かな町ではあったが、住宅や街頭などの、部屋に入る外光は、まるで満月のようだと思う。
 忍の里で育った故か、幸村は以前から、明るい夜をあまり好まなかった。闇の中で己を照らせば、居場所を敵に知らせるうえ、佐助の潜める場所を遠ざける。それに、灯りのある所にいると、光の届かぬ場所がいっそう闇深く、蠢(うごめ)く敵の忍そのもののように感じた。ならばいっそ、己も闇に紛れてしまえば、その闇でかえって己の身は守れる。
 愛子も、同じように闇を嫌った。小田原への忍(しのび)道中がよほど堪えたのか、佐助の話では、小田原の城に到着してしばらくは、夜鳴き烏の声にも怖がっていたという。
 だが幸村と違うのは、愛子は闇を味方につけるのではなく、排除していることだろう。
 灯りを頼る愛子は、すぐに部屋中の電気を点ける。目がくらむほどの光で部屋を照らし、闇の入りこむ隙を与えない。お陰で幸村は、六感で気配を探る習慣がすっかりなくなった。
 こんな調子でいずれ元の世に戻ったら、あっという間に寝首をかかれるだろう。
 ふと、部屋の前を走る道に、人の気配を感じた。ふたり。ひとりはおなご。ずいぶん慌ただしい歩調だ。多少息が上がっている。もうひとりは、よく知る武士の気配だった。
 愛子と政宗が帰って来た。しかし、何故か政宗のほうはそのまま元来た道を引き返した。
 部屋に灯りがついていないのを訝(いぶか)しんだか。まさか、幸村を探しに出たのか。
 悪いことをした、と灯りを点けようと思ったが、遠のいた政宗の気配が、何やら大荷物のままだった気がした。そしてその気配は、近くの横断歩道を渡ったところですぐに消えた。恐らく自ら消したのだろう。忍でなくとも、剣客ならばそれは容易なことだ。
 目を閉じて更に意識を集中するも、愛子の分かりやすい気配と彼女の鳴らしたインターホンが、幸村の注意を散漫させて思うようにいかない。結局、政宗は見失った。
 やはり、時折こうして人の気配を探っていなければ、感覚は鈍るものだと思った。
「真田さん? 大丈夫ですか?」
 インターホンを無視してしまった。悪いことをしたと思いつつ、出迎えない幸村を怪訝に思ったらしい愛子が、玄関で息を飲んでいることが分かる。まるで、死体を見たときの町人のような反応だった。彼女は、己が死んでいると思っているのだろうか。
 すぐに電気が点いた。そうだ、彼女は闇を怖がる。今いきなり動けば、かえって彼女を驚かすだろう。うたた寝でもしているふりをして、物音がしたら目を開くことにしようか。
 彼女に気付かれぬように、寄りかかっていたソファに首を少し預け、居眠りを装った。
 ばたばたと駆け寄ってきた彼女は、幸村の前まで来ると、ほっと胸をなでおろす。そうかと思った次の瞬間、フン、と子供が怒ったように息巻いた。そんなに驚かせたかと思うと、ますます気まずくて起きられない。さて、どう言い訳しようかと思案すると、
「真田さん……どうして起きてくれないんですか……」
 今度は震える声が聞こえた。
 ── 泣いておられるのか。
 泣かれるほどのことか。それとも、泣かせるほどのことを、今日、某はしたのだろうか。
 目を閉じたまま、鎌倉から帰宅するまでを振り返るも、幸村には心当たりがまるでない。
 政宗が一緒に部屋まで戻らなかったことと、何か関係があるのだろうか。こんなことで取り乱すとは、ここに来るまでに何かあったとしか思えない。幸村が混乱している間に、愛子は幸村が使っていたコップを手に取り、わずかに飲み残していた水を口に含んだ。
 そして、次にとった彼女の不可解な行動に、ついに幸村は目を開いた。
 目の前の女性が一瞬、舞姫である錯覚を覚える。
 だが、鼻孔に流れ込むこの香りは、白粉(おしろい)ではなく、彼女が愛用している整髪料のものだ。触れる唇と、己の頬を伝う、彼女の唾液が混ざった水が、いやらしかった。
 嗚咽を堪えて唇をふさいでいるせいか、鼻から抜ける愛子の息が乱れている。
 己の顔を包む愛子の手は熱く、幸村はこれが現(うつつ)なのか判断がつかなくなった。
 幸村の瞼が微睡(まどろ)むように落ち、代わりに下半身が覚醒する。
 唇を離した愛子が、薄く開いた幸村の瞳に気付いて、驚くように目を見開いた。
 眦(まなじり)に貯まる涙が、愛子をいっそう艶っぽくしているように思う。
「口移しをなさるなら……」
 膝立ちしている愛子の腰に、幸村が徐(おもむろ)に左手を伸ばすと、彼女は咄嗟に身を引いた。眼(まなこ)はしっかりと幸村を捕えているが、その奥は激しく泳いでいる。
「相手の口をまず開けるのでござる。それから、口の中で舌を丸め、それを……」
 腰を引き寄せると、幸村の顔に張り付いたようになっていた愛子の手が、態勢を保とうと幸村の肩に捕まった。手には力が入っている。拒絶しているのか、それとも引き寄せようとしているのかは分からない。いずれにしても、もう彼女を離す気は幸村にはなかった。
「それを……相手の口に差し込むようにして、伝わせて水を流し込むのでござる」
 右手で愛子の首を手繰りよせると、愛子は動揺したまま、だが、何も言わずそれに従った。水をと言いつつ、水などもうない。彼女の口も空だった。これではただの接吻だ。
 それでも構わなかった。破廉恥、という言葉は、己の性欲がとっくに燃やしてしまった。
 唇が再び重なる。先ほどの、押し付けるような口づけとは全く違う、控えめな接吻。
 わずかに開いた愛子の口から、不器用に丸まった舌の先端が、恐る恐ると幸村に入る。遠慮がちにそれを舐めると、愛子の腰が、幸村の左手の中で恥じらうようによじれた。
 幸村と、愛子の鼻から、ひとつ大きなため息が、同時に抜ける。
 幸村は愛子の背をかき抱いた。倒れ込むように、愛子も幸村の首にしがみつく。
 15分、時を下され。幸村は政宗の気配が遠ざかったほうへと、強く念じた。

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