大和ごころ
SSブログ

訪問者様へ<必読>

 ゲーム「戦国BASARA3・宴」を中心とした、同人系サイトです。
 あくまで、個人の趣味による作品を掲示しており、公式サイト・原作者作品・メーカー及びその他関連団体とは一切関係ありません。
 また、サイト内作品は、ネタバレ、同人要素、一部成人向け内容を含みます。
 苦手な方はお控えいただき、閲覧される方は全て自己責任でお願いします。
 尚、サイト内の全ての無断転載、複写、加工、2次配布等は禁止させていただきます。


※PCからの閲覧を推奨します

第1章① [「うたかたごころ」第1章]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第1章①の登場人物>
 毛利元就♂…19歳。4年前に元服した、松寿丸(しょうじゅまる)
 杉大方(すぎのおおかた)♀…杉の方。元就の養母
 弥三郎♂…18歳。西海の鬼を名乗り、諸国を放浪している、長曾我部の嫡男
 
 愛子(あいこ)♀…15歳。主人公。かつての安芸吉川の姫。今は……
 前田慶次♂…17歳。愛子の……?


 あの震災から、十年の月日が経った。
 かつて松寿丸と呼ばれていた彼が、再びこの集落まで足を伸ばしたのは、実に五年振りのことだ。彼は既に、今年齢十九を数えていた。
 あの幼い許婚が暮らしていたこの丘も眼下に広がる村も、あの頃と随分変わっている。
 松寿丸が薪を割っていたこの場所は、彼がこの村を去ってから、誰かが頻繁に足を踏み入れた形跡はない。その為、膝の上まで雑草が生い茂り、馬から下りると足元が危うい。
 村を襲った土砂の上は足場が悪い。生活の為とはいえ、よくこんな場所を薪など担いで歩いていたものだと、我ながら改めて思う。
 彼はふと、足を止めた。
 丘の先端に一角だけ、雑草が綺麗に引き抜かれた場所があった。
 昔、松寿丸が、山頂から転がってきた岩を、愛姫の墓石代わりに置いたその場所の前に、まだ新しい花が手向けてある。
 紅色の千両(せんりょう)と、真っ白な山茶花(さざんか)。
「高貴と、愛嬌か……」
 国主の娘にしては人懐こかったあの姫には、相応しい組み合わせだ。
 これを供えたのは、おそらく母代わりだったあの女だろう。
「まぁ、可愛らしい」
 侍女に支えられて輿を降りた女性を振り返り、彼は彼女が抱えた黄色い花を一瞥した。
「色を変えたほうがよかったやもしれませぬ、大方殿」
「貴方様らしい日輪の色にございます。寧ろこの方が愛姫様はきっとお喜びになりますよ」
 さぁ、これを、と彼女 ── 杉大方(すぎのおおかた)は自分の手にある福寿草を彼に差し出した。それを受け取った若者は、千両と山茶花を彩るように、黄色い花を添える。
「それにしても、千両と白の姫椿(ひめつばき)とは。まるで愛姫様がそこで笑っておいでのようですね」
 杉大方の言葉に、若者は花に添えた手を止めた。
 ── 愛子……。
 今、この手にあるのが小さな赤い実と白い花ではなく、あの愛らしい幼子であったなら……。そう思うと、今でも胸の奥が締め付けられる。そして、若者はそんな己に苦笑した。
 とうの昔に捨てたはずの「心」が、まだ己の内に燻っていたとは。
 それとも、捨てたこの地に自分が戻って来たゆえに、勝手に主の体に入り込んできたのか。いずれにしても、今の自分にとっては、もはや不要の代物だった。
 花に手を添えたまま動かない若者に、杉大方は不思議そうに尋ねてきた。
「いかがなさいましたか? 元就様」
 元就、と呼ばれた若者 ── 毛利元就は、僅かに瞳に宿った悲しみを一瞬で消し去り、
「不要なものがあったので、捨て申した」
 いつものように、そう淡々と言い捨てた。

「来た! 見えたぞ! アニキの船だ!」
 浜のすぐ傍の見張り櫓(やぐら)にいた男が、沖に姿を現した大型の安宅船を認めると、下にいる仲間に向かって叫んだ。
 遠洋漁の船という名目で海を渡ってはいるものの、高い戦闘能力も搭載されたその大型船の帆は、七枚の鳩酢草(かたばみ)の文様が、堂々たる姿で潮風を受けていた。
 やがて船影がはっきりと見える位置まで来ると、船首に長身の若者が姿を現した。銀の髪を海風にたなびかせ、大きな碇型の槍を抱えている。
「アニキだ! アニキがいる! おい! 弥三郎様のご帰還なりと報告して来い!」
 そう叫ぶと、櫓の下で待機していた別の者が、報せのため早馬に乗って城へ走り出した。
「アニキィーーー!」
 櫓の男が近づいてきた漁船もとい、安宅船(あたかぶね)に向かって大きく手を振ると、声が聞こえたのか、左目を紫の眼帯で覆った大柄の若者が、手を振り返してにっと笑った。
「この西海の鬼! 今、鬼が島に帰ってきたぜ!」
 そう返してきた若者、弥三郎は、暫く留守にしていた故郷の港を、懐かしそうに眺めた。
 長曾我部の嫡男、弥三郎。
 最強の槍の使い手となり、すっかり日に焼けて逞しくなった彼は、十八歳になっていた。

 城にある、自分の居室に戻った弥三郎は、大柄な体をさらに大の字に広げて、ふう、とため息をついた。
 すっかり放浪癖がついてしまったため、国主である父に、帰還が遅いだの、ちゃんと報せをよこせだの、そもそも嫡男のくせに国を空けるなだの、散々説教を食らった。久々の帰還と言っても、ほんのふた月余りである。確かに嫡男が、国務に無関係の船で国を空けるには長いのかもしれないが、遠洋漁にはむしろ短いと言っていい。しかも、ここ数年は毎年のように出かけている。だから親父もそろそろ慣れろよ、などと弥三郎が気楽に言い返すと、父はますます茹蛸のようになり、そこからさらに半刻足らずも絞られた。
 しかも、留めに父から言われたことが、弥三郎を憂鬱とさせた。
 弥三郎は船の補給が済んだら、今度は京まで出かけて幻の蟹、間人(たいざ)と、ついでに艶っぽい京女を拝みに行こうと画策していたのだが、それをいったいどこから聞きつけたのか、父が、京へ行くなら嫁を用意してあるから娶って来い、と言うのである。
「いらねぇ……」
 女には興味がある。何事も大っぴらな船の男連中のお陰で、弥三郎はすっかり耳年増だ。しかし、興味惹かれるのは女遊びであって、所帯を持つことではない。
 そもそも、嫁を用意した、などと朝飯みたいに軽く言われたが、用意された膳は、あの明智光秀の姪御だと聞く。
 万に一つでも、あの被虐性質がその女に遺伝していたら、夫となる自分の命がいくつあっても足りない。そんなイカれた女を娶るくらいなら、たおやかな男のほうがまだましだ。
「たおやかな……男、か」
 そう言えば数年前、とある噂を耳にした。
 十年前、厳島で会ったあの松寿丸が、養母と共に城に戻ったというのである。父の城か、兄の城か、その辺の話は詳しく知らないが、井上なんたらという、松寿丸達を城から追い出した男が五年前に急死し、その為、身を隠していた二人は何とか毛利の家に戻ることが出来たのだとか。そして、城に戻ってすぐに元服し、名を毛利元就と改めたのだそうだ。
「もとなり、か……」
 十八になった弥三郎だが、未だ元服をしていない。
 これには、弥三郎自身に原因があった。
 実は、国を空けて船出を好む弥三郎の身を案じた父が、己の嫡男は色白無口の姫若子ゆえ未だ初陣に出られないほどひ弱である、と装っているのである。地元では槍の名手と名高い嫡男が、このご時勢、勝手気ままに諸国に出没しているのだ。これは流石に問題があるばかりではなく、弥三郎本人にとっても、土佐にとっても非常に危険なことであった。
 勿論、弥三郎自身に嫡男の自覚が著しく欠如している点も、否(いな)めないのだが。
「しっかしなぁ、こちとら、ただの金食い虫じゃねぇぜ……」
 各国の情報や技術を随分と仕入れて来ているのだ。土佐はその恩恵をたっぷりと受けているし、これらは将来、弥三郎自身が政(まつりごと)を行う際にも大いに役立つはずだ。
「松寿丸、いや元就はどうしてんだか……」
 何でもそつなくこなしそうなあの男のことだ。武将として案じることは何もないだろうが、ひとつだけ、どうしても気になることがあった。
 噂では、毛利元就は未だ独身で、結婚経験はないという。
 ならば、あの可愛らしい幼な妻はいったいどうしたのだろうか ── 。

「愛ちゃん! 支度できたかい?」
 扉を開くなり声をかけてきた賑やかな長身の少年を、愛子は顔を顰めて振り返った。
「慶ちゃん、そんな大声で言わなくても聞こえるから」
「あれ? 何やってんの? 届かないの?」
 壁に背伸びをしてへばりついている愛子に、少年、前田慶次が悪戯っぽく笑った。
「笑わないで。それより、慶ちゃん届く?」
 まっかせなさい、と大きな紙を受け取った慶次は、壁にひょいとそれを掛けた。
「よし。新年の準備完了! もういいかな? 準備できてれば、そろそろ行くよ?」
 うん、と頷いた愛子は大きな旅行用荷物を持ち、慶次の後に続いて部屋を出て行った。
 ドアが閉まると、壁にかけられた西暦2000年のカレンダーが、ひらりと風に舞った。

「第1章②」へ

※↑で文字化けする方(携帯からお読みになる方など)は、カテゴリーから<「うたかたごころ」第1章>→「第1章②」へお進み下さい。


web拍手♪


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ゲーム

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

序章⑳「捨て駒票」(元親+元就) ブログトップ

別館「姫ごころ」

BASARA外ジャンルサイト・別館「姫ごころ」はこちらから♪
史月の1次小説やイラストを掲載しております♪
姫ごころバナー.jpg

※「姫ごころ」サイトへと飛びます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。