大和ごころ
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第1章⑤ [「うたかたごころ」第1章]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第1章⑤の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…15歳。主人公。
                     かつては吉川(きっかわ)の姫だった
 前田慶次♂…17歳。愛子の幼馴染。家族を震災で亡くす
 島津義弘♂…50歳手前。九州出身の元特別救助(レスキュー)隊員
         現在は喫茶店でマネージメント修行をしている

 弥三郎♂…18歳。西海の鬼を名乗り、諸国を放浪している、長曾我部の嫡男
 毛利元就♂…19歳。4年前に元服した、松寿丸(しょうじゅまる)
 杉大方(すぎのおおかた)♀…杉の方。元就の養母




 フェリーを降りた愛子達は、一緒に下船した観光客の波に乗って、参道を厳島神社に向かって歩いていた。途中慶次は鹿と戯れながら、写真を撮ったりして景色を堪能していた。師走も暮れだというのに、万全の寒さ対策をしながらも観光客が随分といる。頬を刺激する海からの冷たい風に、愛子は身震いをした。もっと暖かい時期に来たかった、と思う。
 ── 夏の、厳島……。
 ふと、愛子の脳裏に、暑い日差しが照りつける厳島の景色が、鮮明に浮かんだ。
 冬のそれとは違う、海の深い青。木々の緑に、その間から煌く木漏れ陽。それらの景色の向こうには、はっとするほど、紅く神々しい厳島の社殿と……。
 ── 愛子、来てはなら……。
 自分が駆け寄るその先に、静かに自分を諌める少年の声。
「……松寿兄さま……?」
 愛子は、どきりとして立ち止まり、こめかみを押さえた。
 ── 知ってる、この声……。
 確か、船を下りて目を覚ました自分が、その少年に駆け寄ろうとして止められたのだ。
 しかし、厳島で下船したというおぼろげな記憶がある割りに、その場所がこことは違う気がする。まるでレースカーテンの向こう側のように、見えそうで見えないそのもどかしさに、愛子は思わず眉根を寄せた。

 社殿の回廊を歩いていた弥三郎は、前方を歩く若葉色の装束の男を認めて、思わず息を飲んだ。
「松寿丸!」
 呼ばれた男と、その背後を歩いていた女性が、ふと足を止める。女性のほうが先に振り返り、弥三郎を見てはっと目を見開いた。
「弥三郎殿!」
 女が自分を呼んだ声に、立ち止まった男はビクっと肩を振るわせる。振り返った女のほうは、足早で弥三郎に歩み寄り、驚くほど背が伸びた己を感心したように見上げた。
「あんたは……」
 確か、毛利の先代の奥方、杉の方だった。
「お久しゅうございます。杉にございます。弥三郎殿は、その……失礼ですが御名は……」
 躊躇いがちにそう尋ねる杉大方に、弥三郎は肩を竦めて苦笑した。
「変わってねぇんだ。まだ」
 左様にございましたか、と、些か申し訳なさそうに杉大方が俯いた。いや、それを言ったら、自分も前方に佇む男を、思わず幼名で呼び止めてしまっている。あっちは、しっかり元服しているのだから、むしろ弥三郎のほうが礼を欠いてしまっていた。
「俺のほうこそさっきは悪かった。久しぶりだな。毛利……元就さんよ」
 名を呼ばれた若葉の装束の男、毛利元就は、ゆっくりと弥三郎を振り返った。

 厳島神社の入り口までやって来た愛子は、ふと足を止めた。
「どうしたの? 何か難しい顔しちゃって」
 立ち止まった愛子に気付いた慶次が、振り返って愛子の元まで戻って来た。
「……厳島神社の入り口って、ここ?」
「え? うん、何で?」
 怪訝な顔をして入り口を見つめる愛子の様子に、慶次が首を傾げていると、愛子のすぐ後ろにいた島津が声をかけてきた。
「昔は、ここは裏口じゃったんじゃ。入り口はこん反対側で、今は出口になっとうよ」
「ああ、船着場の場所が変わった時に、出入り口の位置を変えたんだっけ?」
 島津の言葉に、慶次が遠足のときに習ったらしい説明を、思い出したように付け加える。
 先ほどから、もやもやしていたものをずっと感じていた愛子は、島津と慶次の言葉を聞いて一度入った入り口を振り返り、再び建物から出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと愛ちゃん、ここは逆走ご法度だよ!」
 慶次が呼び止めるのと同時に、愛子ははたと立ち止まった。
 ── 逆走? 違う、これが本来の順路……。
 今はあえて順路が変更されているだけだ、と勿論理解はしている。が、入り口を振り返り、そこから見える景色のほうが、やはり愛子には、何故かしっくりときた。
 フェリー下り場で感じたような違和感はここにはなく、確かに自分はこの景色をこの場所で見た、という感覚が、どういうわけか先ほどよりも強い。
 ── まずは心をまっさらにして、見た景色を感じる……。
 先ほど島津が自分に忠告したことの意味が、愛子は何となく分かった気がした。

 振り返った元就の目を見た瞬間、弥三郎は違和を感じた。
 ── こんな目をした奴だったか?
「よぉ……、俺のこと覚えてるか?」
 そう尋ねずにはいられないほど、自分を見る目が、以前とはあまりにも違っていた。
「……姫若子……か」
 眉ひとつ動かさず、元就はそう小さく呟く。
「へっ、悪ぃが、それはとっくの昔に返上したんだ。約束通りな」
「貴様とそのような約束をした覚えはない」
 笑って近づいて来た弥三郎に、元就はぴしゃりと言ってのけた。その言葉に、弥三郎は思わず歩みを止める。
「おい、久々の再会でそんな……」
「我らはこれから御前に詣でる。貴様と話をする暇などないわ」
 弥三郎の言葉を遮った元就の様子に、流石に弥三郎は唖然とした。いったいどうしたというのか。元就の態度の意味が全く分からないので、近くにいた杉大方に尋ねてみる。
「何か、急いでんのか」
 尋ねられた杉大方は、悲痛とも受けとれる目をして、そのようです、と、か細く答えた。
 記憶が正しければ、彼女は非常に礼を重んじる高尚な女性だ。ここが自国のある安芸とはいえ、毛利の、たかだか次男である元就が、他国の嫡男である弥三郎にこのような仕打ちをするなど、以前の彼女であれば、問答無用で叱責していたはずだ。それに弥三郎とて、他国の島に勝手に上陸しているとはいえ、元々ここは誰のものでもない神の島である。ここに立ち寄ることを、安芸の覇者でもない元就に、咎められるいわれもない。
 しかし、他国の、しかも神聖な社殿で安芸の毛利と小競り合いを起こしたくはなかった。
「わかった。引き止めて悪かったな」
 仕方なく、その場は弥三郎が引き下がる。元就はいぶかしむ弥三郎を、踵を返しがてら冷たく一瞥し、さっさと背を向けてしまった。
 やはり、腑に落ちない。
 元々愛嬌のある人間ではなかったが、いくらなんでもここまで無愛想な男ではなかったはずだ。そう。かつて自分が初めて、アニキ、と感じた、姫若子弥三郎にとってはまさに、男の中の男だったのだから。
 ── 何か、あったのか……?
 あれから十年の月日が経っている。
 確かあの別れの日、松寿丸と愛姫の苦難に満ちた未来を思って、自分は思わず涙を零した。それほど、彼らのその後の人生は波乱万丈だったはずだ。あれから十年も経てば、彼らの身に何かあっても、確かに不思議ではない。
 しかし、元就の身に起きたことが気にはなるものの、それを教えてくれそうな杉大方も共に参拝に行く以上、付いて行って尋ねるわけにもいかない。
 そんなことを考えながら、弥三郎は一旦回廊を引き返そうとした。が、ふとあることに気がつき、反対方向へ歩き始めていた元就に、もう一度声をかける。
「おい、そういえば、愛子はどうした。一緒じゃねぇのか」
 その言葉に、毛利の一行が凍りついた。こちらを振り返った杉大方も、一瞬にして表情を強張らせる。
 一行の異変に気付き、何だ、と思いながらも、弥三郎は元就の答えを待った。野暮な質問かもしれないとは思ったが、愛姫を知っている自分には、彼女の近況くらい聞く権利はあるはずだ。
 毛利の家臣が、元就と弥三郎をおどおどと交互に見守る中、徐に振り返った元就は、弥三郎でさえ思わずぞっとするような、物の怪の如き表情で静かに言った。
「あれは……死んだ」

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※↑で文字化けする方(携帯からお読みになる方など)は、カテゴリーから<「うたかたごころ」第1章>→「第1章⑥」へお進み下さい。


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