大和ごころ
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第1章⑥ [「うたかたごころ」第1章]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第1章⑥の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…15歳。主人公。
                     かつては吉川(きっかわ)の姫だった
 前田慶次♂…17歳。愛子の幼馴染。家族を震災で亡くす
 島津義弘♂…50歳手前。九州出身の元特別救助(レスキュー)隊員
         現在は喫茶店でマネージメント修行をしている

 弥三郎♂…18歳。西海の鬼を名乗り、諸国を放浪している、長曾我部の嫡男
 毛利元就♂…19歳。4年前に元服した、松寿丸(しょうじゅまる)
 杉大方(すぎのおおかた)♀…杉の方。元就の養母




 ── 死んだ?
 まるでこの世の人とは思えぬほど、血の気の無い元就の顔。それを見て、弥三郎はある光景が一瞬にして脳裏に蘇った。
 左目の視界を失った、あの日の夜。
 真っ青な顔をして血の涙を流す松寿丸と、左目の眼球を完全に失っていた愛姫の亡骸。
 あの時見た夢を思い出すと、弥三郎は今でも鳥肌が立つ。
「死んだって、まさか……」
 あれは、左目に重症を負った自分の体が、苦痛に耐えかねて己に見せた悪夢だと思っていた。正直言えば夢を見た当時は、虫の知らせか何かで、安芸の二人の身に何かあったのではと、気を揉んではいたのだ。しかしその後、松寿丸が無事であったことを噂で知ったため、あれはやはり、単なる夢だったのだと弥三郎は納得していた。
 しかし、
「まさか、十年前の地震で死んだのか?」
 もし、あれが本当なら、彼女の死に方は壮絶なものだったに違いない。頼むから否定してくれ、と弥三郎は願ったが、目の前の男は、瞬きもせずに青白い顔で低く答えた。
「……そうだ」

 参拝を終えて平舞台のほうまでやってきた愛子達は、足を海に浸した大鳥居をバックに、皆で記念写真を撮った。
 舞台の床板の淵から下を覗くと、膝が濡れる程度の深さまで海水が来ていた。床板の裏側からは波音が聞こえる。
 ── 愛子、来てはなら……。
 ふと、愛子の耳につい今しがた聞いた声が聞こえた。
 今と同じように、こうして、床板のある場所から海面を覗きこんでいる自分。
 駆け寄ってきた自分を諌める少年。先ほど脳裏に浮かんできたものと、同じだ。
「……松寿兄さま……」
 おそらく、さっきの声の主と同一人物なのだろう。声を聞いた途端、先ほどと同じように、自分の胸が動悸を激しく打ち始める。しかし愛子は、それがこの場所で起こったという確信が、やはりここでも持てない。
「整理してみんしゃい」
 振り返ると、ずっと愛子の傍にいて、黙って見守ってくれていた島津が、優しく頷いた。

 元就の言ったことに、今度は弥三郎の血の気が引いた。
 あの地震のあった夜、夢で見たおぞましい愛姫の姿。その記憶に、脂汗がつっと、弥三郎の背中を滑り落ちた。
「目は……左目は、どうなったんだ?」
 まさか、己のように左の眼球に何かが刺さり、それが脳まで貫通したのか。さもなくば、倒壊した家屋の瓦礫か何かが、愛姫の左の顔面を潰してしまったのか。
「……左目?」
 元就は意外にも、弥三郎の言葉の意味が分からない、とでも言うように、初めて眉根を動かした。その様子に、弥三郎は少なからず、ほっと胸を撫で下ろす。
「いや、いい、何でもない。変なこと聞いちまったな」
 元就が、左目、と聞いてその意味の見当がつかなかったのであれば、おそらく愛子の顔面が悲惨な状況になったにではないのだろう。あの地震で命を落としたのであれば、今日が彼女の命日だ。弥三郎の故郷でも、今日はあの地震によって亡くなった、被災者の魂を慰める儀式が行われている。だからこそ弥三郎も、こうしてわざわざ安芸を経由して、この日に厳島を訪れたのだ。
 あれだけ仲のよかった二人だ。とっくに元服したはずの元就が、次男の身でまだ嫁を貰わず、彼女の命日にこうして厳島を訪れているということは、それだけ絆が深かったのだろう。そうと分かって、傷口を抉るほど、弥三郎とて野暮ではない。
「じゃぁな、引き止めて悪かった」
 そう言うなり、弥三郎は軽く手を上げて、元就らに背を向けた。
「待て」
 行きかけた弥三郎を、元就が短く制した。
「左目とは何だ」
 それまで、体半分を前方に向けていた元就が、完全に弥三郎のほうを向いた。声と衣擦れと床の軋みで、背を向けていた弥三郎にもそれが分かった。やはり愛姫のこととなると、それだけ関心があるのだろう。しかし弥三郎は、だったら尚更、あんな残酷な夢のことを、果たして答えてよいものか迷う。
「何故答えぬ」
 先程よりも強い調子で尋ねてきた元就に、弥三郎は観念して嘆息した。
「夢を見たんだよ」
「……夢?」
「ああ。あんた知ってるか。震災のあったあの晩、空に赤い月が出てたのを」
 それを聞いた杉の方は、驚いて元就を見上げた。
 その気配を背後に感じた弥三郎は、不審に思って振り返る。
 見ると、元就は強く息を吸い込んだまま、切れ長の目を大きく見開いて、弥三郎を凝視していた。

 床板の淵から海面を覗きこんだまま、難しい顔をして動かなくなってしまった愛子の背後で、ピピッと機械音がした。振り返ると、愛子が見つめていた場所にデジカメを向けた慶次が、何枚もシャッターを切っている。
 島津と愛子のやりとりをずっと間近で見ていた慶次は、
「愛ちゃんが、何かフラッシュバックみたいなものを感じた場所は、なるべく沢山写真に撮っておいてあるからさ。安心してよ!」
 と、声をかけると、今度は愛子の正面に回りこんで、カメラに収め始めた。
 しかし、それがいけなかったのか、何でそんなところを撮っているのか分からない他の観光客が、ぞろぞろと集まってきてしまった。外国から来ているらしい家族連れなど、随所にある説明書きが読めない分、きっとここも歴史的価値のある箇所に違いないと、やたらとビデオを撮り始めた。そしてついには日本人観光客までもが、何か珍しい物があるらしいと、写真を撮り始める。
 それを見て、慌てたのは慶次のほうだ。
「やばい! 何があるのか説明しろって言われると困るから、俺ちょっと退散するよ!」
 大きな体を急に小さくして逃げていった慶次に、島津と愛子は目を合わせるなり、思わず噴き出してしまった。

 震災の夜、弥三郎の身に起こったことを聞いた元就の反応は、驚くべきものだった。
 宮の島を穢すことをあれほど恐れていた男だ。それなのに、弥三郎が話し終えるかどうかというところで、突然直垂(ひたたれ)を振り乱して掴みかかってきたのだ。
「おい! やめろ、松寿丸!」
「お止め下さい、元就殿!」
 以前は同じくらいだった背丈だが、今の弥三郎はかなりの大男である。突然駆け寄られて胸倉を掴まれたことは流石に驚いたが、相手は大女より辛うじて背丈が高いだけの元就だ。本気を出せば、腕の骨だってへし折れるし、体ごと突き飛ばすこともできる。が、杉大方が間に割って入って来た為、弥三郎は元就の両の手首を掴んで、己から引き剥がすに留めた。しかし、元就も、止めに入った杉大方も、肩で大きく息をしており、装束もだいぶ乱れてしまっていた。これでは、参拝前にもう一度身なりを正さねばなるまい。
「元就殿、お気持ちはお察しいたします。なれど、弥三郎殿の身に何が起ころうとも、そのことで、弥三郎殿が如何にお振る舞いなされようとも、愛姫様の定めを変えることは、おそらく叶いませなんだ」
 声を震わせて元就にしがみつく杉大方は、そのまま元就の肩に顔を埋めてすすり泣いた。血眼で弥三郎を睨みつけていた元就も、その言葉に俯いて肩の力を抜く。元就から殺気が消えたことで、弥三郎も元就の手首をゆっくりと離した。
 この二人の様子から察するに、愛姫の最期がやはり悲惨なものであったのは間違いないのだろう。そう思うと、弥三郎もこみ上げるものを感じ、ぐっと歯を食いしばった。

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