大和ごころ
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第2章⑤ [「うたかたごころ」第2章]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第2章⑤の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                     かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                     幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…武田の若武者。佐助に大将と呼ばれている
 猿飛佐助♂…真田幸村に仕える上忍。愛子を警戒している

 


 部屋にひとり残された愛子は、痛みと心細さでどうしても眠れず、人を呼ぼうか迷っていた。けれど、ここが戦国の世であるらしいという恐怖から、無闇に声を出すことに躊躇いがあり、もう随分長いこと寝返りを繰り返して、時を過ごしている。その時間は30分か1時間か。腕時計も外され、携帯電話は勿論、所持品の全てがどこにあるのか全く分からない状態。分かっているのは、部屋の唯一の入り口である障子戸の向こうが、暗い廊下なのだということ。それ以外の四方は壁で、広さは四畳半。畳は敷かれているが、装飾品の類のものがないので、ここは座敷牢か、それに順ずる部屋なのだろう。
「佐助だ。水と飯を持って来たんだけど、入っていいか」
 外の音が聞こえないか耳を済ませていた愛子は、僅かの気配もなく、突然現れた彼の声に跳ね起きた。廊下の軋む音が全く聞こえなかったので、気配を殺してきたのだろうか。
「は、はい。今、開けます」
 慌てて入口に駆け寄り、そっと障子戸を開けると、すぐ目の前にはこんもりと手拭いがかかった盆を片手に、佐助が苦笑して立っていた。
「別に開けてくれなくてよかったんだけどね。それより、あんた、急に起き上がるのが癖みたいだけど、瘤があるうちは気をつけたほうがいい。また眩暈起こすよ」
「は……はぁ、すみません」
 戸を開けぬうちに、中で自分が跳ね起きたことが何故かバレていた。声をかけてきた彼の口調に迷いが無かったことを考えると、自分が目を覚ましていたことも、お見通しだったのだろう。警察の取調室のマジックミラーではないが、ここが座敷牢ならば、どこかに自分を監視する覗き穴のようなものがあっても、不思議ではない。それとも、自分が知らないだけで、普通の人間ならば今は起きている時間なのだろうか。
「あの……、今、何時なんでしょうか?」
「なんじ?」
 時計の無い時代、どのように時を尋ねたらよいのか知らず、うっかりそう尋ねてしまった。他の言葉でどう言い換えようかと悩んでいると、察しのいい佐助が、
「何時(なんどき)ってこと? だったら酉の刻前だよ」
 と教えてくれた。酉、と聞いて何とか午後6時前と計算するも、江戸が舞台の時代劇で覚えたことなので、更に遡るこの時代と本当に同じなのか、いまいち自信がない。
「酉……夕方ってことですよね?」
「夕方? 夜だよ、もう。これは夕餉」
 そう言って盆にかけてあった手拭いを外し、愛子に座るよう促した。17時台が夕方、というのは現代に生きる愛子の感覚であり、灯りがないと相手の顔が見えなくなるこの時間は、こちらの世では夜なのだろう。ということは午後6時前で正解のようだ。
「色々、すいません。美味しそう……」
 敷かれたままの床に再び腰を下ろし、佐助から塩結びと山菜の付け合わせを受け取る。
「別に悪いことしたわけでもないのに、すぐ謝るよね。そんな癖がついちゃってるってことは、よっぽどおっかさんが怖かったか、厳しいところで奉公してたってことか」
 世間話と見せかけて、彼が誘導尋問を開始していることは分かった。が、彼は恐らくあの「猿飛佐助」。現代では架空の人物と思われているが、それは彼が仕事の痕跡を残さなかった一流の忍である証拠だ。彼に下手な隠し事をすると殺されかねない。現に彼は、今も愛子の夕餉を食べる所作をさりげなく観察している。それに気付き、愛子は正直に答えた。
「両親はいません。いるんでしょうけど、どこにいるか全然分からないんです。ずっと探してるんですけど、見つからなくて。私は身寄りのない子供の面倒を見てくれる場所で育ちました。安芸の宮島の近くなんですけど、ご存知ですよね?」
「安芸の宮島? 宮島って、お宮の島ってこと? ってことは厳島神社のあるあの島?」
 頭の回転の速い佐助に助けられつつも、愛子はしまった、と思った。宮島とは江戸時代に生まれた厳島の呼称で、この時代ではまだ使われていない。
「厳島……そうでした……そう呼ぶんですよね、すみません」
「地元では宮島って呼ぶんでしょ。別にいちいち謝らなくていいよ。本当に癖だね、それ」
 佐助の解釈を敢えて否定せず、そういうことにしておこう、と愛子はこくりと頷いた。
「でもあんた、両親いないって言ってたけど、ちゃんと氏があるんじゃないの?」
 彼女の所持品の多くに「吉川愛子」という名が刻まれていた。否、刻まれるというより、恐ろしく達筆な文字で、ご丁寧に氏名(うじな)と書かれた横にそう記されていた。
「はい。でも、私が5歳頃、養い親に拾われた時に、聞かれて自分がそう答えたから、そうなったそうなんです。だから、結局自分がどこの誰なのかは全然……」
「安芸に同じ名の名家があるじゃない。まさか、そこと無関係ってことはないでしょうが」
「……あの、そういえば……私、名前名乗りましたっけ?」
 自分の知る限り、戦国時代に自分と同じ苗字の武将がいた記憶はない。何となく、会話の噛み合わなさを感じた愛子は、恐る恐る目の前の上忍に尋ねてみた。
「持ち物の一部を見せてもらった。住所(すみどころ)って書いてある場所がいまいち分からないんだけど、取り敢えず、吉川(きっかわ)の娘さんってことだけは分かった」
「きっかわ? 違いますよ?」
 同じ字で吉川(きっかわ)と名乗るミュージシャンがいるせいか、よくそう間違われていたなと愛子は苦笑した。戦国の世でも同じ間違われ方をしたことが、何だか可笑しい。
「私は、吉川(よしかわ)愛子です」

 愛子の所持品を私室に広げて、真田幸村は、やめればよかったと後悔した。荷の全部を調べたことが本人にバレないよう慎重にやれ、と佐助にあれほど言われていたのに、彼女の荷の中から出てくる物が、どれもこれも余りに奇怪で、ついつい広げてしまったら、どこにどう入っていたのか、さっぱり分からなくなってしまった。確実に佐助に怒られる。
 それにしても、佐助から聞いてはいたが、調べれば調べるほど、謎の多いおなごだった。
 中に銭のような物が入った入れ物は、おそらく銭入れの類だろうが、色彩豊かな絵が描かれた、同じ大きさの小さな板が複数入っており、署名欄には全て「吉川愛子」と記されていた。中には板ではなく紙で出来ている物もあり、そこには不思議な案内が書かれている。
「銀しゃり品川店、おにぎり……ポイント? 貯まるとおにぎりと交換……何だそれは」
 ところどころ読めない文字があり、それが益々解読を困難にしている。そして、手のひらに乗るような小ぶりの書物。栞らしき紐の挟まった部分を開いてみると、碁盤のような升目のそれぞれに、小さな文字と六曜が順番に記されている。見開きの左上には「ヨ」という字を丸くしたような大きな文字。その横には、小さく「弥生」と書かれていた。
「これは、暦を見る帳面か。ということは、あのおなごは陰陽道に通ずる者か」
 よく見ると、吃驚するほど小さな文字で、予定らしきものが記入されている。そして幸村は、そのうちの一箇所に、目が吸い寄せられた。
 ── 慶ちゃんと信州スキー。かすがと帰宅。夕食後、深夜出発。
「かすが……、ま……まさか……」
 かすがとは、越後を治める上杉謙信の懐刀で、猿飛佐助と同郷のくの一である。確か佐助の話では、かすがは彼の許婚だったはず。任務の為とはいえ、もし許婚に縁のある女に手を出してしまったら、間違いなく破談。いや、あのくの一の気性を考えれば破談では済まず、最悪はそのような任務を命じた幸村もろとも、彼女の苦無(くない)の餌食となる。
 ぎょっとした幸村は、急いで佐助を止めに駆けつけようと慌てて立ち上がると、膝から何かが滑り落ち、派手な音を立てて畳の上に落下した。見ると、彼女の持ち物の中で、一番用途の分からない小箱のような物が、真ん中の辺りが薄く開いた状態で立っている。
 箱だと思っていた物は、どうやら長細い板が二つ折りに畳まれた物らしい。開いてみると、中には小さな止め具のような物が並んで光っており、「電源」「通話」と書かれた止め具の下に、あかさたな、が順番に記された一回り小さな止め具が三つずつ並んでいた。
「な……何と」
 ふと、視線をもう片面のほうにやると、まるでそこにいるかのような写実的な絵が描かれている。が、幸村が驚いたのはその絵の美しさではなく、描かれた人物のほうだった。
「前田慶次に、薩摩の鬼島津殿……」

「眠いなら……寝ていいよ。まだ、本調子じゃないんだから……盆なら片付けとくし」
 佐助が艶っぽくそう声をかけると、どういう訳か急な睡魔に襲われているらしい愛子が、瞳を潤ませて色香を放ち始めた。佐助は彼女の背を己の胸に預けさせると、盆を握っている彼女の手を己の手で優しく包み、盆をそっと取り上げる。そしてそれを脇に置き、愛子の体を背後から優しく抱きしめると、驚くべきことに、佐助は全く別人の声音で囁いた。
「我がそばにおる。安心するがよい」
 誘うように頬に触れ、既に虚ろな愛子の瞳をそっと閉じさせると、佐助は深く口付けた。

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※↑で文字化けする方(携帯からお読みになる方など)は、カテゴリーから<「うたかたごころ」第2章>→「第2章⑥」へお進み下さい。


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