大和ごころ
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第5章-幸村編-⑪ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-⑪の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 島津義弘♂…60歳手前。九州出身の元特別救助(レスキュー)隊員。
          広島を離れ、関東で自分の喫茶店を開業した
 伊達政宗♂…25歳。島津の店では主に厨房を手伝っている。
         眼帯はドラッグストアで買った物に替えている
 毛利元就♂…29歳。幼い頃、初恋の相手の愛子と結婚の約束をしていた。 
         死んだと思っていた愛子と、20年ぶりの再会を果たす




 閉店間際の時間、たまに地元の客が島津の店にふらりと立ち寄ることがある。島津の人柄か、喫茶店だと言うのに、どうやら居酒屋の感覚らしい。今夜も夜8時を過ぎて、店の扉の鈴の音を聞いた島津は、今夜も誰ぞ来たかの、と厨房から顔を出す。客は島津にとって、いつ訪ねられても両腕を広げて迎えたい愛娘だった。が、彼女の顔は珍しく浮かない。
「どげんした、愛子ちゃん」
「う……ん、ちょっと疲れちゃった……佐助さん、どこかに隠れてる?」
 島津以外の人の気配は全くなかったはずなのに、どこを見るでもなく、愛子は島津に出されたミルクティに口を付けながら、そんなことを言う。
「ははは! 隠れてるかもしれんがの、都合が悪か時は出てこんじゃろ」
「都合が悪いって……忙しいの?」
「佐助はんは忙しかろうが何じゃろが、己が必要と判断したらちゃんと出て来る人じゃ」
 つまり、自分が出ていく必要はないと判断すれば、彼は出てこない。例え暇であっても。
「まぁ出てこんとも、何処かで聞いちょるかもしれんし、今は全く別の場所におるのかもしれん。じゃっどん愛子ちゃんが話したかったら、おっちゃんはちゃぁんと聞いちゃる」
 体に負担のかかる仕事をこなす愛子が、少し電車で遠出をしただけで、疲れる、など。
「幸村どんが女の子の集団に連れ去られでもしたんかね」
 おおよその見当をつけて、島津はいたずらっぽく笑いつつ、さりげなく話を掘り下げる。
 佐助の所在を気にするとあれば、かすがか幸村のことだろうが、かすがの話をしたいのであれば、愛子は佐助の不在を望むはずだ。だが、佐助は忙しいのかと尋ねた愛子の話しぶりからして、佐助にも聞いてほしいのだろう。であれば、愛子の悩みの種は幸村関係だ。
 幸村の名前が出たことで、お見通しかぁ、と苦笑した愛子は、ひとつため息をつくと、
「女の子の集団と戦うよりキツいかな……だって彼、お姉ちゃんと私を比べてるんだもん」
 ふん、と不貞腐れたように、鼻を鳴らした。

 お姉ちゃんと私。愛子の声を厨房で聞いていた彼は、深い栗色の髪をわずかに揺らし、調理台の上を水拭きしていた手を止めた。深緑のフードパーカーを腕捲くりする彼の向かいで、皿をしまっていた政宗は、その‘らしく’ない、彼の分かりやすい態度に苦笑する。
「何がおかしい」
 捨て駒に向けるが如く、ぎろりと視線を突き刺してくるかと思いきや、元就はこちらを見もしない。それこそまるで、背後に迫る刺客を制する、あの忍のようだと政宗は思った。
「ククク……いや、らしくねぇなと思っただけだ」
「……誰の話をしている」
 愛子の声に手を止めた元就か、煮え切らないままひとりで来店し、愚痴を零す愛子か。それとも、おなごの良し悪しなどまるで興味がなかったくせに、姉妹を比較した幸村か。
 いずれにしても元就の無防備な姿を目の当たりにした政宗は、虹を見たような気分だ。
 楽しげな政宗に元就が、引き結んだ唇の中で、小さく歯ぎしりしたのが分かった。
 元々愛想など欠片もない男だが、故に、悔しさや怒りといった表情も、元就は隠すのが上手い。わずかでも内面が漏れ出るなど、ましてやそれが、想い人の恋の話を耳にした、動揺によるものなど。彼に付き従った捨て駒の誰ひとりとて、想像すらしないだろう。
「真田は……」
 ふと、眉間の皺を浅くした元就が、政宗から目をそらす。
「……あれは、愛子を実によく見ている」
 話をそらすなよ、と出かかった政宗の声が、続いた元就の言葉によって、怒りに消えた。
「愛子と舞は、対称的なおなごのように言われることが多いが、存外似ている部分も多い」
「妹を殺したがった姉貴と、殺されそうになった姉貴を、命を投げ出して救った妹がか」
 我が身可愛さに身内の死を望む、己の母のような舞姫と愛子が似ているなど、政宗にとって受け入れがたい言葉だった。かく言う元就は、己以上に舞姫を嫌っていたはず。だが。
「やはり血は争えぬな。舞は我が物顔で毛利家に君臨し、人を妬み、誠の助言に耳を貸さなんだ。対する愛子も、わがまま放題で人の物を羨ましがり、欲しがってよくごねたわ。やきもちを焼いて泣き、周囲の話などまるで無視して、己は我の嫁なのだと言い張った。後で訂正してまわった我の苦情など何処吹く風。違いは悪質かどうか、それのみよ」
 それじゃ愛子は今と変わらねぇじゃねぇか、と元就見やる。すると彼も、苦笑いとともに片眉をしかめて見せた。愛子の話はやはり愉快なのか、‘らしく’ない、いい顔をする。
「独眼竜、貴様の言いたいことは分かる。そなたがあの舞を己の母親の如きおなごとして、毛嫌いするのも道理。我もあんな女と、ようこれまで連れ添ったと、今さらながら思う」
 なれどな、と再び瞳を鋭く細めた元就は、穏やかな松寿丸の心の中に、安芸の守護者たる厳格さを覗かせた。仙台の先の主である政宗の父とて、これほどまでの威厳はなかった。
「なれどな、あの舞のしたたかさ。我が正室ながら、あれは戦乱の世において、生き残るには必要なものであった。実家である吉川(きっかわ)家は、元は毛利同様、吹けば飛ぶ弱小国。使えるものは何でも使い、手を差し伸べられれば誰の手でもすがる必要があった」
「必要なら、手前ぇが産んだ子供も殺す……それも含めて言ってんのか」
 政宗は吐き捨てた。確かに、実家の身の振り方によっては、嫁いでくる女の人格やふるまいに影響を及ぼすことはある。実家と敵味方にでもなれば、特に若い女は実家に情があるため、実家のために動く。だが政宗の母親は、実家のために政宗の命を狙ったのではない。政宗も、母親が擁立しようとした弟も、どちらもともに母親が腹を痛めて産んだ子だ。
「俺の母親が俺にやろうとしたことは、乱世を生き残るためじゃねぇ。手前ぇの見栄のためだ。醜悪な面(つら)した俺の、母親でいたくなかった、ただそれだけのことだ。アンタの奥方も同じだ。中国の覇者の妻の座に執着し、だから生き別れの妹の死を望んだ」
 もし愛子と舞姫が逆の立場なら、命までは狙わず、牽制に留めただろう。しかも、己の見栄のためではなく、元就を愛するが故の、ほほえましいやきもちの表れとして。
「今の愛子を見てみろ。あいつは甲斐の軍を預かる真田源次郎幸村の妻の座を巡って悩んでるんじゃねぇ。ただ幸村の心に、自分と姉貴のどちらがいるのかが知りてぇだけだ」
「あのな……斯様なこと、そなたに言われずとも百も承知よ。うつけか、貴様は」
 不機嫌に眉を寄せた元就の口調に、政宗も、何だと、と語気を強める。
「我は愛子の話をしておるのではないわ。真田が愛子をどう見てるか、それを言うておる」
「Ha! 俺が真田のことを分かってねぇって言いてぇのか」
「ならば言うが、舞の優れたところは、武士の世にあって『家の誇り』より『命』を大事としたことよ。舞に言わせれば『立派な最期』もただの『無駄死に』。そして恐らく──」
 そこで元就はため息をつくと、扉の向こうで何やら笑い声を上げる愛子に視線を向ける。
「恐らく愛子も、誇りよりも生き恥を選ぶ。故に、真田は己の命の燃やし方に迷うておる」
「何だと?」
 違う、と政宗は吠えかかり、その声を何とか殺した。政宗は元就の言葉が理解できない。
「真田は、馬鹿がつくほど真っ直ぐな男だ! あいつから武士の火が消えることはねぇ!」
「確かにあれは理想の捨て駒だった。だが真田の生き方は、恐らく直(じき)に変わるぞ」
 幸村が変わる。その言葉を、政宗は笑い飛ばせなかった。それが稀代の名君・毛利元就の言葉だからだろうか。そしてその元就は、政宗に追い打ちをかけるが如く言葉を続ける。
「どうやら真田は、徳川戦の敗因を、己の戦の能のなさであると、故に己の在り方が分からなくなったのだと、そう思うておるようだ。だが、真田は本当の敗因に薄々気付いておる。ただ認められず、目をそらしておるのよ。あやつは真っ直ぐだが、愚かではない」
 それは政宗とて承知していた。だからこそ戦国時代にいたころ、座頭衆の先導のもと、愛子を連れ安芸に入った折、幸村は智将である元就の策の裏をかき、政宗を待ち伏せた。
「我が考えるに、真田は己の真っ直ぐな志に付いてきた家臣を、真っ直ぐであるが故に失った。本人がそのことに気付いているかは分からぬが、あやつが分からなくなったのは、敵をあざむくしたたかさを己の内に受け入れ、そうまでして己は何を守りたいのか、恐らくはそこであろう。それは迷うであろうな。真田がそれまで守りたかったものは……」
「……武士の魂」
「いかにも」
 幸村にとって「武士の魂」とはそれ即ち、偽りなき「真っ直ぐな心根」から生ずるもの。
「故に、変わるのよ。武士としての己の生き方よりも、守りたきものを得た故に、な」
「敵をあざむいてでも、守りてぇ命ができれば、もう生き方に迷う道理はねぇってことか」
「その通りよ。おかしな話だ。戦のない世に来て、ようやくそれを悟り始めたのだからな」
 おかしいだと? 政宗にしたら、おかしいどころか至極当然な流れだった。戦なき世であるが故に、彼の「武士の魂」がかつての如く、業火のように燃える機会は失われたのだ。
 政宗は、愛子との恋をけしかけるために、幸村の内には元々なかった「嫉妬」という感情を植えつけたことを悔やんだ。己が与えたその闇は恋慕の情を増大させ、時には狂気となることもある。それがいつしか彼の魂を蝕み、滅びを招くのではと、政宗は唇をかんだ。

「第5章-幸村編-⑫」へ

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