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第5章-幸村編-⑫ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-⑪の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
 (今回は出番なし)        かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。
 戸隠(とがくし)かすが♀…25歳。Japan Air の地上係員で、愛子の同期
 片倉小十郎…Japan Airの名操縦士。愛子とは一緒に乗務することがある
 



 鎌倉を一日散策し、少し早い夕食をとったあと、かすがは帰りの電車で愛子らと別れた。
 かすがの家の最寄駅も愛子同様、急行の止まらない駅だったが、沿線に大学があるせいか、学生寮の町としてそれなりに賑わっている。同じ規模の駅でも、小さな商店街があるだけの愛子や島津の町と違い、駅前はこじんまりとした印象とは裏腹に、ファミリーレストランや有名どころのコーヒーショップが店を構えている。その代わり、ファミリー向けの大型スーパーがない。このあたりが、いかに独身の若者が多い町かを物語っていた。
「あの……こ、このまま、こここ今夜は何も召し上がらないのでしょうか……」
 地元に戻り、駅の改札を抜け、少しだけ人気(ひとけ)の少なくなった通りで、かすがはようやく隣の片倉小十郎に切り出した。まだ夜の8時前。寝静まるほどの時間ではない。なのに、今日の町はやけに静かな気がする。自分の声がよく聞こえるのは気のせいか。
 遠くに自分のアパートが見えてきた。前居住者である大学の先輩の紹介で移った部屋だ。
「あぁ、ご心配なく。自宅に戻ればいろいろあるし、帰りにスーパーにも寄る予定なので」
 さり気なく、かすがの家にあがるつもりのないことを、小十郎が示してくれた。あくまで、家の前まで送り届けるだけ。社交辞令の引き止めも、お礼のお茶を出す必要もない、そう言外に含めて。その配慮が、かすがには嬉しい反面、どこか寂しくもあった。
 アパートの部屋はもうあと数分の距離。そういえば学生時代、まだあのアパートに住んでいた先輩を、この道の先で見かけたことを思い出す。名残惜しそうに、彼女は恋人の袖を引っ張っていた。引き止められた彼は周りを伺い、そして彼女の頬を指でなぞると、顔を近づけた。それを見てかすがは、慌てて来た道を引き返した。引き返したついでに自動販売機でコーンスープを買い、販売機から落ちると同時に、遠くで扉の閉まる音を聞いた。
 頃合いか、とまた元の道を家に向かって歩く。先輩の彼がもし駅に向かって歩いてくれば、絶対にすれ違うので、何となく好奇心で恋人の顔を見てみたいと思った。だがその日、彼とすれ違うことはなく、家に入ったはずの先輩の部屋は明かりが点いていなかった。
 翌朝早く、通勤用スーツに身を包んだ先輩と、昨夜と同じ私服をまとった彼の後ろ姿を見た。ちらりと見えた先輩の顔が、幸せそうで眩しかったのをよく覚えている。
 いつか、自分もこういう朝を迎えるのだろうか。そう、漠然と思ったことも。
「……あの……スーパーは何時までなんでしょうか」
「11時までですが……でも出来れば10時前後には出陣したいところですね。閉店セールの争奪戦は、タイミングの見極めが勝敗の鍵を握りますから」
 かすがは笑った。名操縦士・片倉小十郎のイメージと、あまりにもかけ離れている。
「旬の物があるときは、田舎から畑で採れたものを送ってくれるんですがね。それでも流石にそう頻繁ではありませんし、どうせ同じ時間に食べるなら、安く買ったほうがいい」
「ご自分で作られるんですか?」
「そうするようにしてます。パイロットが健康管理を怠ることは、進退に関わりますから」
 そうですね、と深く頷きならがらも、かすがはほっと胸をなでおろす。
 彼に料理を作りに行くような女性はいないようだ。

 愛子の部屋に戻った幸村は、腰を下ろしたまま明かりも点けずに水を飲んでいた。
 水道から出るそれは、確かに薬臭いが、慣れれば飲めぬほどではない。むしろ、愛子が美容のためと、好んで飲んでいる舶来物の硬水とやらのほうが、幸村にはきつかった。
 愛子の姉も確か、美しさを保つために、くじらの腹の中にある、何とかという物を飲むだか塗るだかしていたと聞く。おなごの美に対する執念は、男の天下にも勝ると思う。
 特にあの姉妹はともに見目麗しく、それでいてどこか、美しさの種が違っている。
 もし同じ屋敷で育っていたなら、能天気な愛子も舞姫と美しさを競っていたのだろうか。
「…………」
 ふと、舞姫の唇が幸村の瞼に、白く浮かび上がった。
 あの時は、彼女を愛子だと思っていた。それに、目の前の人は、ひどく弱っていた。
 邪(よこしま)な心が全くなかったと言えば嘘になる。だが、救いたい、という想いが心の大部分を占めていたことも事実だ。その証拠に、仮に己があの場所におらず、水を含んだ口を重ねたのが、部下の破透であったとしても、幸村にその者を咎める心はない。
 初めて愛子に会い、武田の屋敷に拾って帰ったときだってそうだった。佐助が眠り薬を口移したとき、破廉恥だ、とは思ったが、佐助を憎いとも、羨ましいとも思わなかった。
 否、羨ましい、とは少し思った。
 愛子に触れたことそのものより、女に触れる佐助の、大人の男の色気に対して、だ。
 芝居であれほどでは、佐助が本気で女を落としにかかったら、いったいどうなるのか。見てみたい気もするし、見たらますます、己との差に打ちのめされそうで、怖い気もする。
 年齢を重ねれば、己も今の佐助の歳になれば、あの色気は自然と備わるのだろうか。
 幸村は自嘲気味に口角を上げた。おそらく、歳を重ねてもそんな物は備わらない。
 同じ齢(よわい)の伊達政宗がその証だ。彼はすでに、他人の体を知っている。女性(にょしょう)はどうか知らないが、少なくとも男の床(とこ)相手を得ていると聞いている。
 たった一度の、しかも救命手段の口づけの記憶に翻弄される己とは、雲泥の差だ。
「積み重ねるべきは……場数か……」
 歳をいくら重ねても場数を踏まなければ、色気などきっと未来永劫手に入らないだろう。
 幸村はコップの水を更にあおると、わずかに濡れた口元を手の甲でぬぐった。
 目を閉じると、目の前には舞姫の唇が依然とそこにある。今触れた、己の手の甲と、何ら変わらない感触だった。そう。好いてもいないおなごとの接吻など、所詮そんなものだ。
 だが、目の前の唇を己から遠ざけ、目線を上げると、そこにあったのは愛子の眼差しだった。悲しさと、怒りと、動揺と、他にも名づけ難い感情が渦巻いているのが見える。
 今日、紫陽花の寺で見た、愛子の瞳だった。
 舞姫と初めて会ったときのことを思い出し、瞬時に赤くなった幸村。それを訝(いぶか)しんだ愛子は、どうしたのか、と問うてきた。しかも、何でもない、と適当にはぐらかそうとする幸村に、初対面で姉と何かあったのか、ひと目惚れでもしたのか、と容赦なく追い打ちをかけた。幸村の逃げ道を本気で塞ごうとする愛子は、それこそ舞姫を思わせた。
 それがますます、舞姫との口づけの記憶を甦らせ、幸村はとうとう白状した。
 その時に見た、愛子の瞳。それが今、幸村の瞼の中にある。
 ── なぁんだ、赤くなったから、てっきり恋仲にでもなっちゃったのかと思いました!
 次の瞬間には、ぱっと笑って見せた愛子。舞姫ならば折檻(せっかん)を強いるだろう。
 行き場のない怒りや悲しみを、きちんと己の中に封じ込めるか否か、ここに姉妹の差を見た。と同時に疑問も湧いた。今彼女の中で行き場を失っている、その感情の正体は何だ?
 少し前、己が政宗に抱いた感情。それと同じものなのか。そう、自惚れてよいのか。
「まさか……いや、これが……」
 嫉妬、か。
 自分の中にあるときは、それに翻弄されるあまり、その感情に名を付けることも忘れた。
 だが、他人の中に、しかも己に関わる形でそれを見つけた今は、冷静に向き合える。
 嫉妬、愛欲、敵対心。幸村がずっと目を背けていた、大人の感情。
 ── 大将たる者、負の感情に流されることなかれ! 常に正しく、潔くあれ!
 それは幸村の志だった。だが、少なくとも女を巡る戦において、いかな幸村も、身の内で暴れる夜叉を抑え込むことはできそうにない。佐助ならどうするか。どうしてきたのか。
 ── 俺様なら飼い慣らす。暴れ馬もうまく使えば、勝ち戦を運んでくるもんさ。
「……なるほど」
 佐助らしい。幸村は苦笑した。
 負の感情や欲望を持ち、利用し、天下や人の心を手に入れる者を、醜いと思っていた。冷徹非情な判断を下す者を非道とみなし、策を巡らして人を欺(あざ)むき、かけひきをもって勝利を得んとする者を、邪の権化(ごんげ)と決めつけていた。武士(もののふ)の戦においても、恋においても、幸村はずっとそういった者を反面教師にしていた。
 なれど、もはや見て見ぬふりができぬほど、夜叉は幸村の中で大きくなっている。
 潮時だった。どうやら己は、それ受け入れ、共存していく道を選ぶ時がきたようだ。
 ふと、時計を見る。駅で愛子と別れてから、2時間以上経っていた。
 愛子は鎌倉からの岐路の途中、夕飯が早すぎたから夜食を作ってくれ、と政宗に連絡をしている。そして、作らせた挙句、ひとりで持ってこさせるのは悪いから、と島津の店に迎えに行った。それだけのはずだが、ずいぶん時間がかかっている。何をしているのか。
 暗い道を、政宗とふたりで歩く愛子の姿を想像し、幸村は受話器に手を伸ばす。そこで、
「……やめぬか」
 低く吐き捨てた。胸中で暴れまわる夜叉に対してか、独占欲に溺れる幸村自身に対してか。それとも、愛子に触れる、己の想像が作り上げた政宗に対してかは、分からなかった。
 この夜叉、早急に飼い慣らさねば、先に己が喰われそうだ、と幸村は拳を強く握った。

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