大和ごころ
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第5章-幸村編-⑬ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-⑬の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
 (今回は出番なし)        かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。
 伊達政宗♂…25歳。島津の店では主に厨房を手伝っている。
          眼帯はドラッグストアで買った物に替えている




 島津の店に少し長居をしてしまった、と愛子は歩を速めた。
「真田さん、お腹空いちゃってますよね。急がないと」
 町の人口はだいぶ増えたとはいえ、午後9時を回ると、人気(ひとけ)はほとんどない。まるで深夜のような静けさが暗闇を支配する。それが余計に愛子を焦らせたが、政宗は、
「お前らが鎌倉で夕餉をとった時刻は、むしろ俺達にとっては普通だ。だから平気だろ」
 急ぐ素振りも見せず悠々と歩いていた。だが、愛子に遅れをとらないのが不思議だ。
「そうですけど……そういえば私、戦国時代の食事時間はなかなか慣れなくて堪えました」
「Ha! 飯の時刻だけじゃねぇだろ。お前の場合はもともと食う量が尋常じゃねぇ」
 日ノ本一の米どころに嫁いでも、お前の胃袋は養えねぇ、と苦笑する政宗に、ほっといてください、と愛子は頬を膨らませた。しかし、政宗の抱えるふたつの紙袋を見やり、
「あの……その紙袋、両方ともうちの分ですか?」
 と夜食の量を期待してしまうあたり、愛子も自分の食欲旺盛ぶりを認めざるを得ない。
「んなわけねぇだろ。こっちは前田の風来坊のだ。早番で先に帰っちまったからよ」
「伊達さんが届けるんですか? 結構マメなんですね。意外」
 どういう意味だよ、と政宗に睨まれ、今度は愛子がくふふと笑う。
「だって戦国にいたころ、伊達さんって何でも人にやらせてたじゃないですか」
「そういう立場なんだから仕方ねぇだろ。自分でやっちまったほうが手っ取り早くたって、部下に与えた役割を取り上げるってのは、例え国の主でもしちゃならねぇんだ」
 それが、他の国の部下でもな、と政宗はさりげなく暗闇に目を凝らした。愛子には何も見えないが、闇のあるところに忍あり、と佐助が言っていたのを思い出し、佐助さん? と声をかける。島津の店ではとうとう、彼が愛子に姿を見せることはなかった。
「無駄だ。あいつが本気で気配を消してるときは、いないのと同じだ。主の危機でもねぇ限り、例えその主が呼んだとしても、出てこねぇときは出てこねぇ」
「真田さんが呼んでもですか? それじゃ真田さんが困るじゃないですか」
「真田は俺なんかよりも忍の気配に敏感だ。猿飛もそれを心得てる。わざわざ姿を見せなくたって、気配で所在を報せるのが忍だ。呼んでも猿飛が出てこねぇときは、近くに不審な野郎がいるか、単に出ていく必要もないと判断したか。いずれにせよ、それが忍の役割で、忍の正解ってやつだ。主の真田のほうもそれを分かってるんだから問題ねぇ」
「忍の役割……忍んで生きること……ですか」
 いつもの、ご名答、という政宗の口癖を、愛子はほんの少し期待する。だが。
「さぁな。真田が猿飛に、影として‘生きろ’と命じたなら、それがあの野郎の役割だが」
 忍、ってのは、武士(もののふ)と仕官の概念が違う、と政宗は続ける。
「侍は主君に、忍は仕事そのものに命をかける。契約の金を受け取り、その報酬の分だけ働くのが忍だ。家柄だとか忠義だとかで縛られねぇぶん、使い勝手がいい。だがその反面、契約が切れれば、次は敵として命を狙ってくるかもしれねぇ。それを防ぐ手段はふたつ。忍の心を得るか、あるいは破格の給金を払い続けて‘生き方’まで命じるか、だ」
 生き方を命じる、ですか、と愛子は困惑した。現代で会社勤めをする愛子には、勤め先に生き方まで命じられる重さが理解できない。最近は特に、会社への帰属意識の薄さを指摘される世代だ。仕事が好きな愛子とて、オフは自分時間を謳歌したいというのが本音だ。
「もし……私が真田さんに、私の人生の主君は私自身だ、って言ったら、怒るでしょうか」
 奔放に見える佐助とて、幸村が絶対の主君と認めている。そして佐助に帰属意識を持たせたのは、他でもない主君の幸村。彼は今で言う、軍という会社を率いる上司と同じだ。
「私はJapan Airという旗の下で働いている自分を誇りに思っています。辛いこともあるし、フライト中、落下の恐怖を味わうことも度々だけど、でも、辞めたいとは思わない」
 命を懸けることはなくても、社会は常に競争で渦巻いている。競合とは言わばサービスの戦いを繰り広げ、その最前線の戦力として働くことに、自分は生きがいを感じている。
「でも、人生の全てを仕事に費やすのはナンセンスだとも思っています。自分を育てるのは仕事だけじゃない。遊びも、休むことも、経験の全てが自分を豊かにする、私はそう思うんです。がむしゃらに戦うことも時には必要だけど……そこが真田さんと違うかも」
 幸村は戦いの中に己の存在意義を見出している。少なくとも愛子にはそう映っていた。
「伊達さんはさきほど、生き方、と仰いましたけど、それって私には生き方というか……」
「死に方……に聞こえるって、言いたいみてぇだな」
 口角をあげる政宗に、愛子はか細く、はい、と答えた。
「まぁ、間違いじゃねぇ。武士ってのは命を燻(くすぶ)らせるより、短く派手に炎上して、最期は後世に名を残す死に方を選ぶ。‘安全第一’が主義の、アンタの世界とは違う」
 アンタの世界、という政宗の壁のような言葉が、愛子の胸を重く塞いだ。
「やっぱり……真田さんの世界と、私の世界って違うんですね……分かってたことだけど」
 愛子はふと、昼間の幸村の話を思い出す。脱水症状を見せていた姉に、口づけて水を与えたという彼の話。119番するという方法があっても、彼は姉に口移しをしていただろうか。
「フンだ。周りに部下さんがいたなら、何も真田さんが自分でしなくたっていいじゃない」
「HAHA、姉貴が羨ましいか」
 うっかり出た愛子の独り言が、何のことを言っているのか分かったらしく、政宗は笑いながら愛子のふくれっ面を見下ろす。さしかかった横断歩道が、ちょうどよく青になった。
「キスそのものより、お姉ちゃんと真田さんが同じ世界に生きてることは……ちょっと」
 羨ましい。正直言えば、口移しも。普通に現代の世を生きていたら絶対にしない行為だ。
 政宗の言う通り、自分達は生きる世界が元々違う。故に、咄嗟の判断が自分と異なるのは仕方がない。そして、こうした幸村との感覚のズレは、これから生活を共にする中で、嫌というほど目にするだろうと思う。幸村の武士らしさには惹かれる。けれどその反面、愛子は心のどこかで、そういった自分とのズレを目の当たりにするのが怖いと思っていた。
 やはり自分達は同じ世に生きるべきではない、という事実を突きつけられているようで。
「愛子、世界なんざ手前ぇで作るもんだ。歴史も、な。少なくとも俺はそう思ってる」
 早々に点滅を始めた横断歩道を渡りきると、愛子の住まいはもう目の前だった。
「自分の人生の主は自分なんだろ? だったらしたいと思うことをすればいいだろ」
 エントランスの前まで来ると、政宗はそう言って、愛子に紙袋のひとつを渡す。
「お前の部屋、電気が消えてる。くたばってたら、あいつに水でも飲ませてやれ」

 自分の部屋ではあるが、愛子は一応インターホンを鳴らした。幸村はもともと、かなり暗くなるまで電気を点けない。だが、愛子や政宗がこれから帰宅することを知っているのに、明かりを点けていないのが妙に気になった。インターホンの返事もない。
 仕方がないので、自分の鍵を取り出す。そっと扉を開けてみると、幸村の靴が見えた。
「真田さん? 大丈夫ですか?」
 人の気配に敏感な幸村が、返事をしないことに胸騒ぎがして、慌てて靴を脱いで上がる。
 居間に人が座っているのが見え、ダイニングの電気を点けると、幸村が腕を組んで座っていた。一瞬怒っているようにも見え、真田さん、と呼ぶ声を飲み込んでしまった。が、寄りかかっているソファに首がもたれているので、どうやら眠っているらしい。
 そういえば佐助も、小田原への野営中よく腕を組んで眠っていた。忍びは起きていることを装いながら眠る。腕を組むのも、急所を守り、武器を隠し持つためなのだそうだ。
 驚かせないでよ、と愛子はふくれた。現代の世で、幸村の身に何かあったら一大事だ。
 でも、このまま彼が元の世に帰らなかったら、日本史はどうなるのだろうか。私は?
 彼に異変を感じたら、ダメだと分かっていても、自分は救急車を呼んでしまうだろう。
「真田さん……どうして起きてくれないんですか……」
 涙が出てきた。舞姫が羨ましかった。無事に現代の日常を過ごせば、彼はいつか姉の生きる世界に戻っていくだろう。死なせたくない。歴史も変えたくない。でも帰したくない。
 気配の悟りに秀でた彼が、未だ起きる素振りを見せない。変に思いつつも、愛子は寝顔を愛おしいと思った。どうかこのまま穏やかに眠っていて。どうか戦の世に戻らないで。
 腕に触れる。温かい。そのまま胸に指を置く。鼓動が響いてきた。そして、唇に触れる。
 ── 自分の人生の主は自分なんだろ? だったらしたいと思うことをすればいいだろ。
 そうだ。私の人生の主は、運命でも歴史でもない。私自身だ。
 私は、彼が好き。真田幸村、という彼が好き。
 幸村が飲んでいたらしい水を、少しだけ口に含む。胡坐をかく幸村の横に膝立ちし、覆いかぶさるように彼の寝顔を覗き込んだ。寝息の音は聞こえない。起きているのだろうか。
 どうでもよかった。起きているなら、それでもいい。
 愛子は幸村の顔に両手を添えると、顔を近づけた。幸村の唇が自分のそれに触れる。
 薄く開いて水を少しずつ流したが、何故か口には入らず、彼の頬を流れた。失敗した。
 やめよう、何してるの私。
 急に恥ずかしくなって顔を離すと、愛子の目には、薄く目を開けた幸村が映った。

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