大和ごころ
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第5章-幸村編-④ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-④の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。




 愛子の柔らかい唇、鼻から抜ける温かい息、膝をきゅっと閉じた太もも。その全ての感触が、幸村の全身に火をつける。とろけ落ちる明太子を、口で受け止めた愛子の喉がわずかに上下し、それを飲み込むのすら艶めかしく、幸村は、白い首に目が釘付けになった。
「す……すみません! 意地汚いことしてしまって……」
 紅潮した顔を勢いよく離した愛子が、あっ、と何かに気付いて自身の太ももを見下ろす。
 視線を辿り、己の片手が太ももに乗ったままだと気付いた幸村は、仰天して腕を引いた。
「そそそそ某こそ、申し訳ござらん! ど、どさくさに紛れてこのような……」
「あ……じゃなくて、その幸村さんの手に落ちたおにぎり、どうしようって思って……」
 幸村の掌に乗る、ひとつまみほどの米粒。自分が一度口を付けた物を、幸村に食べちゃってくださいとは言えない。しかし両手は、幸村によって愛子の手ごと握り潰されたおにぎりが、びっちりとくっついてしまっている。では、捨ててください、と言えるかというと、作ってくれた本人に対してそれもできず、うーんと唸って愛子は眉をハの字にする。
 ── 分かりやすいお人でござる。
 おなごを苦手とする幸村ですら、彼女の考えていることが手に取るように分かる。
「某が食べてしまってもよろしいか」
「そ、そうですね……お願いします。す、すみません、折角作っていただいたものを……」
「いや、某こそ相すまなんだ。舐めろ、という意味が咄嗟に理解できず、そ、そその……」
 幸村は己の勘違いに心底嫌気が差し、そこで言い澱(よど)んだ。落ち着いて考えれば、己の手についた物を、下に落ちる前に舐めてくれ、と受け取るのが普通だろう。
 そして、いい加減手をどけよ、と己を密かに叱咤した幸村は、太ももからそっと手を離し、手にくっついた米粒を一瞥する。おなごの体から離した手を、直接己の口に持って行くのは、何だか卑猥な気がして、幸村は反対の手の指で摘んでから、口に放り込んだ。
 そんな幸村を眺めていた愛子が、ふっ、と柔らかく瞳を細める。
「やっぱり真田さんって、お武家さんなんですね。仕草が洗練されてて、憧れます」
 洗練? と幸村は思わず尋ね返す。粗野で乱暴で、詫び寂びの一分も分からぬ己が、
「そのようなことを言われたのは初めてでござる。ましてや愛子殿にそう申されるとは」
 黒い制服に身を包んで、煌びやかな空港を颯爽と歩く彼女に、憧れられるなど。
「だって私だったら、こぼれたご飯、わざわざ指で摘ままないで、そのままぺろって食べちゃいますから。それに真田さんって、長時間の正座も足を崩されないし、箸の持ち方も綺麗で、言葉遣いも丁寧で……槍を持って戦っている時より、猛者の強さを感じます」
「槍を持っている時より……でござるか」
 はい、とにっこりと笑ったあと、あ、すいません、と愛子は慌てて謝罪する。
「真田さんが槍を持っていらっしゃる時は、危険が近くまで迫ってるっていう恐怖が先にあって、私のほうに余裕がないからで……凄いなぁとか言ってる場合じゃなくて……」
 槍を持つ時よりじっとしているほうがいいなど、幸村に失礼だった、と焦っているらしく、愛子は急に顔を青くして、早口で弁解を始めた。しかし、そうかと思った次の瞬間、
「でも、食事を囲んで会話を楽しまれてるときの真田さんは、穏やかで凄く腰が低くて、例えお相手が格下の方でも、丁寧に受け答えされて、時には教えを請われたりもして」
 幸村と過ごした戦国での時を懐かしみ、遠くを見つめて笑みを湛える。そして最後には、
「私が想像してた戦国一の兵(つわもの)よりも、実際の真田さんはずっと素敵でした」
 わずかに頬を染めてはにかんだ。めまぐるしく変わる愛子の表情に、思わず目を奪われ、
「そそそそそのような……勿体なきことにござる! ままま政宗殿のほうがよほど……」
 慌てて視線を逸らすと、幸村は先ほど見送った、政宗の背のほうへと目を向けた。
 そうだ。彼のほうがよほど謙虚に己を捉え、よほど大将としての才がある。それでいて、己の槍を弾き返すほどの剣客で、しかも美丈夫。まさに、非の打ち所のない男だ。
 それに比べて己ときたら、何ひとつとっても、彼よりも優れていると胸を張れるものがない。唯一の誇りである槍とて、彼と互角に打ち合いこそすれ、打ち負かすには至らず。
「政宗殿のほうがよほど……『暴将』なる蜚語(ひご)が欠片もはまらぬ名将にござった」
 これまでとて幸村は、幾度も刃を交え、少なからず言葉も交わし、政宗が優れた武将であることを知っていた。が、小田原の野営中では、国主としての器の大きさを思い知らされた。そして軍を抜け、個である彼と暮らしを共にするようになると、これまで鎧によって隠されていた、ひとりの青年としての魅力が、よりいっそう眩しく映るようになった。
「鎧の善し悪しは、武者としての風格を左右致す。故に、力ある軍を率いる武者であるほど、鎧兜(よろいかぶと)は華やかなものになり申す。なれど……なれど政宗殿は逆にござった。彼の鎧は寧ろ、その武者ぶり、はたまた男ぶりを、隠していたのでござる。あのような御仁と某が、好敵手になり得たのも、槍がこの手にあったればこそ……」
 戦国の世であれば幸村は、少なくとも武勇の面では、己に誇りを持っていた。が、
「こちらの世は、書を楽しみ、味を楽しみ、衣を楽しみ、情報を楽しみ……目の前にある物を如何に楽しみ、如何に己の物とできるかを問われることが、度々あり申すが……」
 そんな生活で幸村は、鍛錬や戦働きで得たものを、まるで生かすことができずにいる。
「政宗殿はそういった刀を持たぬ勝負にも、次々と挑まれる。テレビを楽しみ、洋装を着こなし、新しい食材と出会えば、刀を包丁に替えて己の世界を切り拓く。異界のようなこの地に放り込まれても尚、突き進まれるのでござる。もはや、某が追いつけぬほどに」
 柔軟であるように見えて、己らしさを失わない。それがまた人を惹きつけ止まず、そんな彼の魅力を見せつけられる日々に、幸村は焦りと苛立ちを覚えるようになっていた。
「槍を交える場がなければ、某は政宗殿と肩を並べられるものなど、もはや何も持ち合わせぬのでござる。戦なき太平の世をと、あれほど息巻いていたにも関わらず、いざ平凡な暮らしが始まると、某は生き方がまるで分からなくなり申した。己が如何に偏った人間であったか、政宗殿が如何に多彩なお方であられたか、肺腑(はいふ)にしみ申した」
 ひとつ静かにため息をつき、風にあおられて一枚だけ落ちた花びらを、幸村は悲しげに見つめる。ぽつんと取り残されたように地面に横たわるそれは、まるで幸村のようだった。
「そうですね……確かに伊達さんも、想像してたような怖い人じゃなくて、驚きましたけど、でも、四国から伊達さんの陣に行けって言われた時は、私も凄く怖くて不安でした」
「まぁ……竜と称される剣客と聞けば、おなごならば、そう思われるのが普通でござる」
「えぇ。しかも、松寿兄さまから逃げるために、伊達陣に行くだなんて……本当にそれでいいのだろうかって、正直かなり迷いました。でも、元親さんが言ったんです。真田さんが一番信頼してる男だって。だから私も、伊達さんを信じようって、思えたんです」
「……某が……でござるか」
 はい、と相好(そうごう)を崩すと、何故か愛子は、両の指の腹をすりすりとこすり、
「だ、だって真田さん……守ると誓った魂に一点の曇りなし、って言ってくれましたから」
 そして赤椿の如く頬を染める。が、ふいに何かを思い出すと、今度は表情が暗く一変し、
「でも、あの時、真田さんが切ろうとした首の傷……それが目に入るたび、涙が出ました」
 床に度々様子を見に来てくれた時と同じように、眦(まなじり)にうっすら雫をためた。
「愛子殿……よもやそれほど……」
 よもやこれほど、己を信じてくれていたとは。
 自白を促す薬を与え、彼女の秘密に土足で踏み入り、軍の都合で忍と野営をさせた挙句、最後は元就との取引のため刃を突きつけた幸村。もはや、敵意を持たれても当然だった。
 だが彼女は、たった一度の幸村の必死を、心に留め置いてくれていた。そして、その時の己の振る舞いこそ、言葉こそ、瞳こそ、幸村の本質であることを理解してくれていた。
「愛子殿。某は徳川との負け戦以降、戦い方を見失い、己を守るはずの槍と鎧が重しとなって、暗い水底(みなそこ)から這い上がれずにおり申した。なれど……」
 ── 愛姫殿をお守りすると誓った某の魂に、一点の曇りも無し。
「なれど、愛子殿と出会って、戦い方を見失った某も、守り方だけは見失っていないことに気付いたのでござる。そして、守るものがある者こそ真の強者(つわもの)であり、守るべきものを守り抜いた者こそ、真の勝者であることを学び申した。故に愛子殿……」
 次々と部下の命を取りこぼしていった、己の弱き手を、かつてのように見つめ下ろす。
「某を、誠の兵(つわもの)としてくれたのは、愛子殿である、と某は思うておりまする」
 依然として幸村の両の掌は、空のままだった。槍で出来た豆も、もはや姿を消している。けれど、守りたいものをしかと見定め、天命を知ったそれは今、漲る力で溢れていた。
「某にとって国は人、主は虎の魂、槍は己、鎧は佐助にござる。そして愛子殿は某の……」
 隣の愛子が、息を飲むのが分かった。幸村は己の跳ねる脈を、拳でぐっと握って抑える。
「某の……みらい……そう、未来。その……つまり、未来に在って頂きたい人にござる」
 己の未来が、今現在から先なのか、それともあの戦国の世から先へと続く日のことなのか、それは口にした幸村にも分からなかった。
 だがいずれにせよ、この先、歳を重ねた佐助と己のそばに、願わくは愛子がいることを、そしてその時、彼女が幸せであることを、幸村は心から望んでいた。

「第5章-幸村編-⑤」へ

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