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第5章-幸村編-③ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-③の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。
 伊達政宗♂…25歳。島津の店では主に厨房を手伝っている。
         眼帯はドラッグストアで買った物に替えている
 戸隠(とがくし)かすが♀…25歳。Japan Air の地上係員で、愛子の同期




 九部咲きの見事な染井吉野を、ベンチに座ってうっとりと眺めていた愛子に、手作りの握り飯を差し出した幸村は、わぁ、という彼女の感嘆の声を聞いて、わずかに紅潮した。
「凄い! 美味しい……これ、真田さんがおひとりで作ったんですか?」
「あぁ……いや、事前に一度、佐助に作り方を教わった故、ひとりで、とは言い難きところでござる……白状すると今日も、最後は政宗殿が味見下さり……」
 そこで言い澱んだ幸村は、今朝がたのそのやりとりの中で込み上げた、政宗への嫌な感情を思い出し、隣で幸村の握り飯を口に入れる彼から目を逸らして、思わず眉を寄せる。
 早朝から島津の自宅の台所を借り、ほぐし鮭やら高菜やらと、あれこれ具材を広げ、ようやっと米の蒸らしも頃合いかという時。様子を見に来た政宗が、突然、俺が味見してやると言い出した。もし近くに右目がいれば、いくら吉川(きっかわ)の姫と言えど、格下の女のために用意する物を、国主である伊達政宗が自ら味見をするなど ── と諌めただろう。そう思い丁重に断った幸村だったが、それをさも気に入らないと顔をしかめた政宗は、愛子はお前にとっても格下だろ、と今度は幸村の行為の不自然さを指摘してきた。
 しかも、幸村を言い伏せる彼の瞳は、何かを探るような、それでいて、からかいも含んだ光を乗せていた。政宗の挑発的な笑みなど、数え切れぬほど目にしてきたが、その時はどういうわけか、幸村はかなりの苛立ちを覚えた。そして、某には詫びの意味も、と言いかけて口をつぐんだ。何故か、目の前の彼から、お前にその気がないなら、今度は俺が愛子に腕をふるうぜ、と言われる気がして、言わせるものかと思ったのだ。だが、何故突然、そんなことを思ったのか。幸村自身にもそれが分からず、実は今も戸惑っていたりする。
「うわぁ、何だかすごく贅沢ですね。戦国一の兵(つわもの)の手作りで、あの独眼竜のお墨付きのおにぎりを、お花見しながらいただくなんて……」
 にっこりと笑う彼女の言葉に、幸村はまたしても、何とも表し難い複雑な感情を覚える。
 伊達政宗と並んで称されることは、幸村にとっては誉(ほまれ)の極みだった。それなのに今度ばかりは、作ったのは己だ、と政宗を遠ざけたがる闇が、胸の内に湧いてくる。
「いえ、某は……この握り飯では、『銀しゃり』の足元にも及びませぬ」
 本来なら、己の作った物でも政宗の味見がある以上、ここまで謙遜するのは不敬だ。
 分かっているのに、幸村は思わずそう答えてしまった。何故このような醜い競争心を抱くのか。子供ではあるまいし。頭ではそう自制を試みるも心では、味見しただけの政宗と一緒にしてほしくない、という驚くほど嫌な感情が、抑えても抑えても膨れ上がってくる。
「そんなことねぇだろ。次からはわざわざあんな高い店で買わねぇで、真田が作りゃいい」
 その政宗の言葉が、今度は己を馬鹿にしたような気がして、はぁ、と適当な返事をする。
 いつから己はこうなった。この前甲斐で、愛子と桜を愛でた時の幸村は、負け戦で己の無力に打ちひしがれ、たいそう情けなくはあったが、ここまで利己的ではなかったはずだ。
 だが今の幸村は、己の浅ましさを棚に上げ、人を敬う心を飲み込む夜叉が巣食っている。
「なぁ、喉乾かねぇか」
 ふと政宗が、握り飯をひとつ平らげたところで、幸村に声をかけた。
「た、確かに……握り飯だけしか用意しておりませぬ故……申し訳ござらぬ」
「そうじゃねぇよ。お前、口と目、やけに乾いたりしてねぇか」
 言われれば確かに、舌がやけに渇いている。実は幸村もずっと感じていたのだが、先月から多少なりともあった空気のざらつきが、ここ最近、急激に増した気がしていた。
「冬服だと、少し歩くと確かに暑いですよね。やっぱり春物、揃えたほうがいいかな……」
 政宗達の着ている薄手の冬物を眺め、思案を始めた愛子に、いや、と幸村は首を振る。
「そうではなく……政宗殿の申しているのは……何というか、風が埃っぽいというか」
「愛子、花粉と黄砂のことを言ってるんじゃないか?」
 3人腰掛けてしまった愛子達のベンチに座りきれず、荷物と一緒に隣のベンチに座っていたかすがが、マスク越しのくぐもった声を会話に挟んできた。目が潤んでいる。
「大丈夫? かすが、何か辛そうだね……どこかお店に入る? ムズムズする?」
「あぁ、鼻は何とか薬で抑えているが……目が結構辛くなってきた。愛子は大丈夫なのか」
「うん。私も花粉症の薬を飲んではいるけど、今日はマスクしてなくても平気みたい」
 かすがと愛子の会話に、幸村はふと周りに目を向けた。政宗の白い眼帯をひと回り大きくしたような物を顔に張り付ける人々。まだ寒かった時よりも一層その人数が増えている。
「なるほど……花粉……これが花粉症にござるか」
 幸村の場合は症状というほどではないが、何となく視界が曇り、喉や鼻にはやはり不快を感じる。政宗に至っては先ほどから口を強く引き結んでおり、幸村は心配になってきた。
「政宗殿、お辛うござるのか」
「いや……少しな……No, problem、心配すんな」
 そう自嘲気味に苦笑してみせる政宗を見て、あぁまただ、と幸村は思った。
 六爪(ろくそう)の竜と謳われる剣客の彼も、先日の秀秋の話ではないが、実は自分が箱入りの病弱な男であることを気にしている。普段はまるでその気配を見せないが、戦のない現代の生活が始まり、一日の大半を共にするようになってから、彼の体は幸村の思っている以上に、強くないことが分かった。勿論、体力ではなく、病などの抵抗力の話だが。
「マスク、買ってきましょうか? もし必要なら、私が今行ってきますよ」
 そう尋ねながら、勢いよく立ち上がった愛子に、政宗は、いや、俺が行く、と制し、
「眼帯の洗い替えも買いてぇんだ。お前と幸村は平気だってんなら、ここで待っててくれ」
 かすがに向かって、行こうぜ、と顎でしゃくる。薄っすらと黄ばむ風が舞うたびに、先ほどから不快な表情を露わにしていたかすがは、自身も少し屋内に入りたいと思っていたようで、珍しく気乗りした顔で、私も行ってくる、と告げた。
「何か飲み物とかいるか?」
 政宗が、ふと幸村を振り返る。そこで、はっとした。国主である彼に、使いを頼むなど。
「い、いえ……某は特に……お気遣い、恐れ入りまする」
 急にそわそわとする幸村を見降ろし、政宗は呆れたように左目を伏せた。政宗が、幸村の遠慮を一番嫌うことは承知している。だが今は、気まずさも相まって、それが拭えない。
「……まぁ、いい」
 幸村にか、それとも独り言なのか、どちらともつかぬ口調で、政宗が吐露する。そして、さり気なくポケットに片手を突っ込むと、かすがを伴って、じゃあな、と歩き始めた。その仕草で、すれ違う女性の視線を次々と吸い寄せる。そんな彼を幸村は呆然と眺めていた。

 ── 目のかゆみが辛いので、しばらくバーガーショップにいる。
 かすがから愛子の携帯にそうメールが送られてきたのは、彼らがドラッグストアに向かって10分を過ぎたころだった。2人席に案内されたので、こちらに来るなら予め連絡をほしい、そう続いた文面に何となく違和感を覚えたようで、愛子が一瞬首を傾げる。
 が、思い至ることがある幸村は、もしや彼らにそうさせてしまったのは己ではなかろうか、とため息をついた。敏感な政宗のことだ。幸村の不自然さに気付かぬはずはない。
「政宗殿には、誠に悪いことを致した……恐らくは、某に気を使ったのでござろう……」
「気を使うって、どうしてですか?」
 愛子に正面から、きょとん、と見つめられ、いや、その、と幸村はしどろもどろになる。
「そ、某に、ああ愛子殿と、ふふふ、ふた……ふたりきりで、は……はは、はな……」
 花見を楽しめ。政宗はその意で、この場を外したのだろう。ところが。
「ふたりっきりで……はな……は、話があるって……そそそそれって……あの……」
 話? いや、話ではなく花見でござるが。
 そう訂正しようと、ふと隣を見ると、愛子は何故か恥らいながら、頬を赤らめている。
 そうかと思った次の瞬間には、幸村の視線にはっと気付き、今度は盛大に慌てだした。
 その拍子に力が入ったらしく、ぎゅっと潰れたおにぎりから、辛子明太子が飛び出す。
 愛子の穿いている白地のズボン落ちたら染みになる、と咄嗟に手を出した幸村は、愛子の両手を己の手で覆いつつ、落下地点の愛子の太ももに、もう片方の手を差し出した。その素早い動きが功を奏し、米粒は愛子の太ももにある幸村の手のひらに、明太子は愛子の手を包む幸村の手の指に、とろりと落ちただけで、彼女の衣服が汚れるのは免れた、が。
「……あ……あ、ああああ、あ、相すまぬ!」
 ほっと息をつき、冷静さを取り戻した次の瞬間、ぼん、と頭から湯気が噴射した。が、幸村が手を離せば、せっかく堰き止めた明太子が落ちるため、それを離すこともできない。
「な……舐めちゃってください!」
 舐める? 彼女の……何を?
「は……っ」
 破廉恥でござる! 思わずそう絶叫しそうになり、幸村は思いっきり愛子の手を握り潰した。当然、おにぎりはぐちゃりと音をたて、愛子の両手から溢れるように押し出される。
 そして、あ、と慌てた愛子は、逃げ出すおにぎりを捕まえようと、咄嗟にかぶりついた。

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