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第5章-幸村編-⑦ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-⑦の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 戸隠(とがくし)かすが♀…25歳。Japan Air の地上係員で、愛子の同期




 大型連休のピークを過ぎると、羽田空港から見える青は、空も海ももう初夏の色だった。
 その2つの青をぼんやりと眺めながら、一般客が利用するカフェの窓際席で、かすがはアイスコーヒーのグラスの水滴を指でなぞっていた。今日は早番。久々の定時上がりだ。
 昼時には少し遅いこの時間は、オーシャンビューテーブルにもまばらに空席がある。静かに話したい、そう思っていたかすがにとっては、ありがたいことだ。大型連休中は多忙を極めたであろう、かすがの待ち人にとっても、きっとこのほうが落ち着くに違いない。
 5月の上旬は武将らも、急に客足が増した島津の店に出ずっぱりだった。かすがとしては、未だ調査に進展がないこともあって、政宗に会わずに済むのは助かった。空港職員であるかすがは、大型連休前から激務が続いていて、正直なところ調査どころではない。勘のいい彼ならば、空港関係者が多忙であることは、愛子の生活ぶりで察しがつくだろう。
 だからこそ、現状を打破するならば、今がチャンスだった。
「かすが!」
 帰国したばかりの愛子が、キャスターを転がして待ち合わせのカフェに姿を現した。
「本当にすまない。疲れてるだろう……長居はしないようにする。ランチは私のおごりだ」
 若干むくんだ愛子の顔を見て、海外乗務後に呼びつけたことを、改めて申し訳なく思う。
「いいよ、そんなの。久々のふたりっきりなのに水臭い。色々食べたいから自腹にさせて」
 かすがの横に腰掛けた愛子の、疲れ知らずな笑顔と食欲に、かすがは思わず苦笑した。
「最近は、ふたりで過ごせる時間が、本当に少なくなったな。忙しかったのもあるが……」
 かすがとて、日本史に名を残す武将達と同じ時を過ごせるのは、貴重なことだと思う。
 だがこうして、何年も憧れていた「空港」という場所で、気の置ける親友と仕事帰りのひとときを過ごすのは、やはり居心地がいい。
「ごめんね、厄介ごとに巻き込んじゃって……私はもう楽しんじゃってるからいいけど」
 愛子にとって武将達は、戦国で世話になった恩人だ。そんな彼らへの恩返しを、厄介ごと、などとは愛子は露ほども思っていない。だが、かすがを巻き込んだことをずっと気にしている彼女のこと。親友が本音をこぼせるよう、敢えて言ったのだろう。その証拠に、厄介ごと、と口にした心苦しさが、楽しんじゃってる、と続いたフォローに滲み出ている。
 それとも、かすがが打ち明けられない何かを抱えていることに、感づいたのだろうか。
「いや……その、私も実は……楽しい……というか、ちょっとここのところ……その……」
 楽しいはずはない。自分の命を人質に、探偵の真似事のようなことをさせられているのだから。それでも、愛子を責めるのは筋違いだし、責める気持ちもかすがにはなかった。
「どうしたの、ホントに……まさか……」
 何とも歯切れの悪い物言いに、自分ですら、らしくない、と虫唾(むしず)が走る。
「い、いや……特に何があったというわけではない。私も結構楽しんでいる、という話だ」
 他言無用、という声がかすがの脳裏をよぎる。愛子に何かを勘ぐられるわけにはいかない、とかすがは慌てて言葉を付け足した。自分のためだけはない。愛子の命を守るためだ。
「……そうなの? 私はてっきり……なぁんだ、一緒に話せると思ったのにな、恋バナ」
「……は?」
 つまんないの、と言いながら、愛子の分の水とおしぼりを持ってきた店員に、メニューを一度も開くことなく、愛子はオムレツとバーガーセットを頼む。相変わらず大食いだ。
「恋バナって……愛子、誰かと付き合い始めたのか?」
 寝耳に水。思い当たるとしても、松寿丸もとい毛利元就以外、思い浮かぶ相手がいない。
「うーん……それがね、付き合うっていう感覚がない人だから、そこがちょっとあいまいなんだよね。でもね、もしかしてプロポーズかも、っていうようなことがあって……」
 かすがは、ぎょっとした。交際の概念がないということは、つまり相手は武将で確定だ。
「プロポーズって……ちょっと待て。まさか愛子、お姉さんの夫の妾になるつもりか?」
 オーダーを終えて戻ろうとしていた若いウェイターが、かすがの言葉にテーブルの傍で固まった。まるで悪女を見るような目で振り返られ、愛子は顔を青くして全力で否定する。
「あ、ち……違います! ちょっと違うよ、かすが! 真田さんだよ!」
「さな……だ? あ、真田さんか……そうか……なら、よかった……」
 ひとまずの、昼ドラ的三角関係の回避に、かすがはほっと胸をなで下ろす。だがすぐに、いや、よくはないだろうと、続けた。相手が誰であれ、本来生きる世界の違う武将と添うのは、前途多難だ。しかし当の愛子は、能天気にも思い出し笑いを浮かべて、照れている。
「そう、真田さん……某の未来に在ってほしいでござるぅ! って。くふふふふふ」
「…………」
 そのはしゃぎように、かすがはこめかみを抑えた。この仕草、佐助がやるのをよく目にするが、幸村が愛子に似ていると散々嘆いていた彼の気持ちが、今なら分かる気がする。
「くふふ、なんてにやけている場合じゃないだろう! ここでのあいつは無職の無一文で、そのうえ戸籍もないんだ。入籍できない男と一緒になって、どうやって食べていくんだ」
 よりにもよって、この現代に一番馴染めていない、あんな不器用な男の妻になるなど。
 もし相手が他の武将ならば、戦国と勝手の違うこの現代でも、生きていく術を講じるだけの、知恵と器用さがあるので何とかなるだろうが、知恵があっても策を良しとしないあの男の場合、下手をすれば「気合い」だけで、問題を乗り切っていこうとする気がする。
「だよねぇ……それに、私みたいに半年くらいで元の時代に帰っちゃうかもしれないし」
 離陸していくジャンボ機を目で追った愛子の瞳が、ふと寂しげに揺らぐ。
「……確かにそうだな……すまない」
 恋バナ、と言うからには、彼女は自分が恋をしている自覚があるのだろう。
 例え無職であっても、ふたりの周りには協力者がたくさんいる。が、時の問題だけはどうにもならない。恋を自覚した分、愛子の抱える不安と恐怖は、かすがの想像以上だろう。
「愛子、その……例えば……の話なんだが……」
 旋回して離れていくジャンボ機を、名残惜しそうに見ていた愛子が、こちらを振り返る。
「真田さんが片倉機長のように、こちらに転生している、という可能性はある。いやもちろん、そちらを探して結婚しろ、という話じゃない。ここからが、例えば、の話だが」
 かつての腹心が、家宝の類を引き継いでいないか、それを知りたがっている伊達政宗。
 政宗本人もその探し物が何なのか分かっていない。なのに、何故それを探す必要があるのか、かすがはずっと引っかかっていた。しかし彼が自ら、その理由を説明しようとしなかったことから、命が人質に取られているかすがは、深入りを避けて敢えて尋ねなかった。
 だが今は、大切な人と時を隔ててしまった彼の思惑が、何となく分かるような気がする。
「例えば、真田さんが愛子を心から慕っているとして、もし今後、愛子をこちらにひとり残して、戦国の世に帰ってしまったとしたら、彼のことだ、何か残しはしないだろうか」
「……残す? でも、仮に彼がそうしたとしても、彼がここにいる今現在はまだ……」
「いや、今いる彼ではなく、戦国の世に戻った、武士・真田幸村の話だ。彼の歴史を見る限り、彼の人生は教科書通りのままだ。だが、義理堅いあいつのことだ。愛子と離れ離れになったら、彼は必ず未来へメッセージを残すだろう。それでもし彼が、現在で生きている自分に、もしくは愛子宛に何かを残すとしたら、誰かにそれを託すと思うんだ」
「……あっ!」
 ようやく、かすがの言おうとしていることが分かり、愛子はその大きな目を見開いた。
「片倉さん……」
 愛子の呟きに、かすがはこくりと首肯する。その瞬間、この件に幸村と愛子を関わらせるな、という政宗の言葉が、かすがの胸を刀のように貫いた。
 政宗の知ろうとしていることが、いったい彼の何に役立つことなのか、それを調べていったい何をしようとしているのか、正確なことは今もかすがには分からない。
 だが、何となく、伊達政宗の思惑は、日本の歴史に深く関わっているような気がしてならなかった。佐助が関わる以上は、幸村にとって不利な結末ではないだろう。けれど、時に幸せとは、利を得るための犠牲となることがある。何しろ結婚は「女の戦」と言われる時代。日本史の、幸村の正室の名が未だに愛子に変わらないのが、まさにその証拠だ。
 もし佐助の目的が、幸村に愛子のことを諦めさせることであったとして、その結果が伊達の国の利益に繋がるのであれば、彼らが一時協定を結んだとしても、何ら不思議はない。
 だが日本史が変わろうと、かすがにとって願うことは、やはり親友である愛子の幸せだ。
「愛子。彼は……片倉さんはまだ独身だったな」
 本当は今日、小十郎と親しい愛子に、それとなく調査の協力を願うつもりだったのだが。
「え? うん、確かそう。どうしたの? 突然」
 唐突に変わった話題に、愛子が困惑の色を見せる。しかしかすがは、滑走路に向かうために向きを変えている、窓の外の新型機を、ある決意と共に強い眼差しで見つめ続けた。
「片倉さんに、デートを申し込んでみる。親しい関係になれば、何か分かるかもしれない」
 え!? と驚愕した愛子の顔が、ガラス越しに映る。だがかすがは、それを振り返ることなく、出発準備が整いいよいよ自走を始めた、ガラスの向こうの新型機を見送り続けた。

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