大和ごころ
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第5章-幸村編-⑨ [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-⑨の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。
 猿飛佐助♂…29歳。真田幸村に仕える上忍。
 (長野佐助) 島津の店で厨房を手伝いながら、ホールもこなす
 伊達政宗♂…25歳。島津の店では主に厨房を手伝っている。
         眼帯はドラッグストアで買った物に替えている
 長曾我部元親♂…28歳。幼少の愛子と元就を知る。
             現在では、島津の店の厨房を手伝っている
 片倉小十郎…Japan Airの名操縦士。愛子とは一緒に乗務することがある
 戸隠(とがくし)かすが♀…25歳。Japan Air の地上係員で、愛子の同期




 引っ越し、とは言っても武将の荷は少ない。そもそも、いつ戦国の世に帰るか分からないので、服なども必要最低限しか揃えていなかった。元々鎧を厚く着込んでいた政宗だけが、少し大荷物になった程度。三成と幸村に至っては片手で運べるほどの私物しか無く、もはや車も必要なさそうだった。だが、そう安心するのも束の間、思わぬ問題が浮上した。
「土曜は俺の日が悪ぃって言ってんだろ。そうだな……木曜がbestだ」
「ちょっと、竜の旦那。木曜はうちの大将の日が悪いっての。ってことで、愛子、月曜で」
「あの……私、月曜からヒースローに飛ぶんで、できれば日曜で……」
「愛子殿、日曜は仏滅でござる」
「…………」
 その日は問題外だ、と言いたげな幸村の渋顔に、愛子はがっくりと肩を落とす。確かに、日は良いに越したことはない。だが、それにしても、根っからの大和武将・幸村はともかく、先進的な政宗や忍の佐助が、まさかここまで日の良し悪しを気にするとは意外だった。
 雑誌の星座占いや簡単な風水ぐらいなら、愛子も多少は気にするが、個人の星まわりを割り出す四柱推命(しちゅうすいめい)まで駆使して、吉凶を案じたことはない。まして、
「それぞれの恵方まで気にしてたら決まらないですよ。皆さん、ちょっと妥協して下さい」
 こんな小さな町の中だけの移動で、方位まで気にすることになるとは夢にも思わなかった。仕事に障る日を何とか避けたい愛子は、傍らで笑っていた元親に援護を求める。だが。
「いやぁ愛子、方位ってのは大事だぜ? 俺も野郎共も海に出る時は、必ず調べてたしよ」
「弥三郎兄さま……助け舟を出してほしかったのに……」
 煽(あお)ってどうするんですか、と言外で突っ込みながら、愛子は深く嘆息する。悪ぃ悪ぃ、と言いながらも悪びれた様子が全く無い元親は、白い歯を見せて腹を抱えていた。

 羽田空港、出発ロビー。日本語、英語に続いて、韓国語の搭乗開始アナウンスが流れる中、ふとJapan Airの制服を視界の端に捕えたかすがは、愛子だろうか、と視線を向けてハッとした。そのCAの集団の中に、肝心の愛子の姿は無い。だが代わりに、彼女らに少し距離を置いて現れたパイロットがふたり。そのうちのひとりが、片倉小十郎だった。
 頼んでおいた小十郎への手紙が、既に彼の手に渡っていることは、その任を引き受けてくれた愛子から知らされている。密かに命がけの調査を行っているとはいえ、まさか彼にデートを申し込む日が来ようとは。偽の想いを綴(つづ)るのは、罪悪感との戦いだった。
 かすがにとって片倉小十郎という人物は、これまでは遠目に見かける程度の存在だった。
 勿論、腕のいいパイロットであることは知っていたので、同じ看板を背負う社員として自慢には思っていた。しかし、それ以上の、個人的な好意は無い── はずだったのだが。
「すみません、アテネ行きのカウンターはここでいいんでしょうか?」
 暫し、仕事を忘れて小十郎を目で追っていると、搭乗手続きにやって来た客が声をかけてきた。通常ならば、手続きカウンターを探しているゲストを見かければ、例え他社の客でも、かすがはこちらから声をかけている。それが、大型スーツケースをカートにも乗せず、一生懸命転がしてきた小柄な女性の存在を、声をかけられるまで気付かなかったとは。
「フリーツアーのお客様でしたら、こちらで間違いありません。お荷物お預かりしますね」
 ここのところ、仕事にきちんと集中できていない自覚がある。自分が間違えれば、利用客と荷物が、地球の反対側に飛んでしまう事態も起こり得る仕事だ。ミスは許されない。
 ── 気を引き締めねば。今は仕事に集中しろ、かすが。
 最初はCAを目指していたとはいえ、低給激務のグランドスタッフと言えども、今は自分の仕事に誇りを持っている。与えられた仕事を大切にしろ、とかすがは自分に喝を入れた。
 仕事に本腰を入れ、誠心誠意で空港利用客にサービスを尽くす。そのかすがの姿を、小十郎が遠くから満足げに眺めていたことに、接客に集中する彼女が気付くことはなかった。

「日曜の早朝にしましょう! その時間はまだ、仏滅パワーが全開じゃないと思うんで!」
 ぴっと人差し指を立てて、引っ越しのタイミングを得意げに決めた愛子。当然のことながら、政宗、佐助、元親や幸村まで、いったい何を言っているんだと、ぽかんとなった。
「ねぇ、独眼竜。あんた異国語、得意でしょ。今のちょっと訳してよ」
 理解の努力を早々に放棄した佐助は、愛子の夕食を運んできた政宗に解説を押し付ける。
「真田と同類の生き物を相手にするのは、お前のほうが得意だろ」
「政宗殿……あんまりでござる」
 実際は主人である幸村が、まるで佐助の飼い犬のような言い様(よう)。これには、流石の幸村もしゅんと項(うな)垂れる。しかし、同じくペット扱いの愛子のほうは、政宗お手製の夕食に、美味しそう! と目を輝かせ、佐助の小言などまるで耳に入っていない。
「これからは伊達さんが作ったご飯を、毎日食べられるんですね! 大工関係は真田さんが得意ですし。戦国で真田さんとお会いしてから至れり尽くせりで、贅沢者ですね、私」
 あれはまだ、愛子の素性が分からず、窓のない座敷牢に捕えていた時だった。自分の屋敷ではなく、病床の信玄が養生をしている武田の屋敷だったうえ、佐助を奥州に放っていたので、愛子の世話は幸村が自ら行っていた。しかし、あくまで彼女の監視が目的である。
「愛子殿、あの頃と今とでは、愛子殿と某の立場はまるで逆にござる。むしろ尽くされているのは某かと。食い扶持(ぶち)減らしが必要なときは、遠慮なく某に申して下され」
 幸村のほうは彼女が不審な動きをすれば、命をとるつもりでいたのだ。よもや愛子に、己の世話を放棄され、野垂れ死ぬことになっても、恨み言を言うつもりは毛頭ない。だが、
「そんなこと絶対にしません。私、ちゃんと独立した社会人ですよ? 心配はご無用です」
 愛子は頼もしく微笑んでみせる。独立する、社会人になる、ということの意味を、武将たちは未だ感覚として掴みきれていない。だが、降って沸いた六人の成人男性に、これほどの暮らしを整える、彼女の生活力もさることながら、大勢の協力者をも持つ愛子の「社会人」ぶりを見れば、「一人前」という言葉よりも、ずっと奥深いものなのかもしれない。
「まぁ俺様もそこは心配ないと思うよ、大将。むしろ心配なのは、仏滅パワー云々のほう」
 先勝じゃないんだから、と佐助は腕を組む。そもそも「仏滅パワー」がよく分からない。
「実はですね、月曜に飛ぶヒースローって、イングランドという国にあるんですけど……」
 グリニッジ標準時というものがありまして、と愛子は自分達が今使っている時間の基準を説明し始める。愛子曰く、経度0度、即(すなわ)ちロンドンにあるグリニッジ子午線が午前0時を過ぎるまで、世界の半分以上が前日、つまり仏滅ではない、というのである。
 再び、ぴっと人差し指を立て、これで問題ありません、と得意げに話を締める愛子。なるほど、と納得する幸村に、もう面倒臭ぇ、と妥協しかけた政宗を見て、愛子はほっと胸をなでおろした。ところが、纏まりかけた場を見ていた元親が、そういゃよ、と口を挟み、
「毛利の野郎が、戦で似たような屁理屈こねたって聞いたな。進軍するにゃ日が悪ぃって尻込みしてる足軽に、月と日輪を裏表に描いた扇をひっくり返して、日が変わってもう吉日だ、とかぬかして軍を進めたって話だ。納得しちまう捨て駒も、どうかと思うがよ」
 まぁ結局勝ったらしいから、その案も有りかもな、と笑った。だがそれではまるで政宗達が愛子の捨て駒のようである。妥協しかけた政宗の眉間に深淵(しんえん)が現れると、
「弥三郎兄さま……屁理屈とか捨て駒とか言わないで、もっと普通の助け舟出して……」
 まるでフォローになっていない元親の言葉に、愛子の人差し指が、ふにゃりと折れた。

 愛子の部屋の洗面台に、自分と政宗の歯ブラシを置きにきた幸村は、ずらりと並べられた小物の数々に圧倒されていた。化粧品やら桃色の櫛やら、消臭効果のある偽物の観葉植物やらと、男ばかりの島津宅には無かった物ばかりだ。一般的な現代女性に比べれば、愛子のそれは少ない。だが、他の女性と比したことがない幸村が、そんなことは知る由もなく、聖武天皇・皇后遺愛品の宝庫である正倉院はこんな感じだろうか、と思わず想像する。
 結局、愛子の必死の説得── というより怒り始めた愛子に政宗らが折れた形で、引越しは日曜に強行された。惨忍な成り駒と称される毛利元就に、人の心を取り戻させるだけでも舌を巻くが、あの伊達政宗に妥協を強いるほどとなると、もはやある種の傾城である。
「あ、もし邪魔でしたら適当にどかしちゃって下さい。すみません、色々出しっぱなしで」
 幸村が歯ブラシを宙に泳がせていていると、宝達の主が片付けようと手を伸ばした。
「場所をお借りしているのは某でござる故、ここに在るべき物ならば、このままで構わぬ」
 そもそも置き場所に困って、もたもたしていたのではない。そうかと言って、愛子の私物を眺めていたとも白状し辛いのだが。しかし愛子は、ですけど、と鏡の前を見下ろす。
「蔵に刀をしまう武士(もののふ)がおらぬと同じにござる。甲斐で愛子殿の荷にあった物も見られるが、旅に携えるほどの愛用品ならば尚のこと、在るべき所に置いて下され」
 彼女は現代を生き抜くために戦っている。しかも、幸村達を守りながらだ。おなごの櫛は、武士の刀に同じ。ならばそれに順ずる化粧品の類も、己にとっての鎧と同じであろう。
 侍を知らなかった彼女が、戦国の世で幸村の魂を理解してくれたように、今度は己が愛子の生き方を受け入れたい、幸村はそう思った。例え、どんな些細なことであっても。

「第5章-幸村編-⑩」へ

※↑で文字化けする方(携帯からお読みになる方など)は、カテゴリーから<「うたかたごころ」第5章-幸村編->→「第5章-幸村編-⑩」へお進み下さい。


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