大和ごころ
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月と燎火 [拍手SS再録置き場]

 この作品は、拍手お礼用で作成した短編小説「月と燎火(りょうか)」です。
 戦国時代。武田は徳川に敗れ、伊達は豊臣に敗れた直後。
 連載中の長編小説「うたかたごころ」第2章⑭の、1段落目と2段落目の間に当たる番外編SSで、箱根の山を越えてくる石田三成の迎撃に備え、幸村と政宗が小田原で野営をしている時のお話です。
 ※今回は「うたかたごころ」の主人公・愛子の登場はありません。

 本編をご存知のないかたでも、読んでいただきやすい作品となっておりますので、よろしければ、どうぞお付き合い下さい♪

<「月と燎火(りょうか)」の登場人物>
 真田幸村♂…武田の若武者。徳川との戦に惨敗したばかり
 伊達政宗♂…佐助から愛子のことを聞き、正体を探ろうとする




『月と燎火(りょうか)



 愛子と佐助は、今頃どうしているだろうか。
 そんなことをふと思いながら、真田幸村は夜空を見上げた。
 野営の陣からわずかに離れて用をたし、伊達真田両部隊が焚く小さな燎火(りょうか)を背に、水面(みなも)に月を泳がせた川へと視線を下ろす。(つら)なる山と平行する川は、中流と下流のちょうど中間のような川幅で、河原もそれなりに広く、だが下流ほど(にご)っていない。流れの速い場所に指を入れ、水を舐めてから、腰に引っ掛けていた水筒に、軽くすすいで水を入れる。
 ── 暖かい夜だ。
 山々が残雪を(いただ)く信州では、皐月(さつき)といえども川の水はかなり冷たい。吹き降ろす風に至っては夜ともなると、氷のように肌に刺さることもある。それに比べて、信玄の住まう甲州は、幾分(いくぶん)か温暖だと思っていた。が、相模(さがみ)の海を目前にしたこの地の風は、なんたる暖かさだろう。さすが、新緑が光るだけあって、昼には夏のような暑さすら感じる。
 ()れる手に吹く風の、爽やかな心地に誘われ、顔でも洗ってしまおうか、と(かが)んだとき、
「どうした。そこに何かあんのか?」
 ふと背後から声をかけられ、幸村はぴくりと肩を動かした。
 無論(むろん)幸村は、その人物が(おのれ)に近づいてきていたことも、己の背から少し離れた所で立ち止まったことも、そもそもその人物が誰であるかも、気配で全てわかっていた。が、やはりこの声を聞くと、それだけで全身の血がかっと熱くなり、落ち着かない。
「そんな警戒することねぇだろ。別に得物(えもの)は抜いちゃいねぇぜ。それとも何か。お前は俺が、ひとりになったところを見(はか)らって、背中から襲うような小物だと思ってんのか?」
「なっ……斯様(かよう)なこと、これまで微塵(みじん)も思うたことはこざらぬ! ただ……」
 気分を害してしまったか、と幸村は(あわ)てて背後の人物── 伊達政宗を振り返った。
「ただ、何だ」
 熱弁(ねつべん)の多い己が珍しく言い(よど)んだせいか、政宗は眉を寄せつつ、静かに続きを(うなが)す。
「その……どうも、貴殿の声を聞くと……手合わせを願いたい衝動にかられ申して……」
 独り言のように(こぼ)したうえに、ため息までついてしまい、幸村は己の情けなさにうな垂れた。これでは遊んで欲しい幼子(おさなご)が、父や兄に飛びつくのを我慢しているのと同じだ。
 一方政宗は、幸村のその落ち込みかたが可笑(おか)しかったらしく、クククと笑い出す。
「ま、明日迎え討つのが雑魚(ざこ)とわかってて、ここが甲斐か奥州なら、俺も相手になったけどな」
 政宗は()んだまま、幸村に同意しつつも、(いくさ)に集中しろ、と言外(げんがい)(いさ)めた。
 ここは幸村にとっても、政宗にとっても敵陣と変わらない、油断のおけぬ地。(ゆえ)に、見晴らしがよく、敵が忍びにくい平地で()を明かすのだ。今は(やいば)(まじ)えているときではない。
 そもそも幸村は、石田三成の足止めに、格上である政宗を巻き込んだ負い目があった。
 それだけではなく、本来ならば、元は小さな城持ちの次男で、仮の大将でしかない己が、由緒(ゆいしょ)ある名家の嫡男(ちゃくなん)であり国主である政宗と、気さくに会話すること自体、(おそ)れ多いこと。
 そんな相手と対等に関わることを許されるのは、命を懸けた真剣勝負の場のみ。
 それを、戦に巻き込んだ側の幸村が、しかも迎撃前の大事に、政宗に手合せを願うなど。
(それがし)……誠にご無礼を……面目(めんぼく)次第(しだい)もござらぬ……」
「戦国一の(つわもの)に手合わせを()われて気分を害すほど、俺は大物じゃねぇよ」
 やたらと(かしこ)まる幸村に、己は小物でも大物でもない、と苦笑する。しかしその落ち着きがまた、二つしか歳が違わぬことを忘れさせるほど、政宗を遠く偉大に見せた。
 もしこれが信玄だったら、あの(すさ)まじく熱い拳が飛んでくる。一方佐助には、戦いたい相手と戦ってればいい立場じゃないよね、と冷たくあしらわれて終わり。それでも以前は、信玄の熱い説教があったお陰で、冷熱(れいねつ)按排(あんばい)されていたのだが、信玄が病床に()してからは、拳に教わることが叶わなくなり、佐助の言葉には容赦がなくなった。
 大将となった最初の戦で大敗して、まだ日も浅い。
 頭を抱える日々には、槍で発散する暇などなく、幸村は不完全燃焼が続いていた。
「以前から(うかが)ってみたかったのでござるが……政宗殿は……その……」
 ひとり熱くなってしまったとき、熱くなりたいときは、どうするのか。
 言い(にく)そうにする幸村を一瞥(いちべつ)した政宗は、(かぶと)を外して夜空にかかる三日月を見上げた。
「まぁ俺は、元々アンタみてぇにhotじゃねぇからな。むしろ、俺よりアイツらのほうがよっぽどアンタに近い。だから戦でもねぇ限り、俺がアイツらより熱くなることもねぇ」
 月から、小さな焚き火を囲む「伊達家臣(アイツら)」に視線を移し、政宗は左目を細める。
 その静かな(たたず)まいは、地上の()を天から見下ろす三日月のようで、幸村は一瞬、政宗が別世界の人のように見えた。視線に気づいた三日月の武士(もののふ)が、ふっと笑う。
「意外か?」
「意外……というか、本来の貴殿のお姿を初めて拝見したと……その……何というか……」
 意外、という言葉が不敬に思い、代わる言葉を(めぐ)らす幸村に、政宗が苦笑した。
「それを、意外って言うんじゃねぇか」
「そ、それは……た、確かに……」
 繰り出した槍と同じく、彼は某のことを、本当によく見ている、と幸村は観念した。
 豪傑(ごうけつ)(うた)われる幸村の槍を、(はじ)き返すほどの政宗の太刀筋(たちすじ)。騎馬武者ぶりや、喰いつく瞳に尊大な物言い。見せつけられた彼の気迫には、何度も魂を熱くさせられた。しかし、
「恥ずかしながら(それがし)は、(やいば)(まじ)えれば相手のことがわかる、と思い込んでおりました。貴殿の太刀筋からは、某の槍と同じ熱さを感じていた(ゆえ)、政宗殿と某は似ている、と……」
 己は()り上がりの大将。一方、彼は生まれながらの国主の血筋で、しかも嫡男だ。
 こうして静かな所で言葉を交わしていれば、さすがの幸村にも、政宗の品格がわかる。
 それは彼が、いかに育ちがよく、いかに冷静であり、またいかに人の上に立つ素質を備えているかを、よく物語っていた。熱しやすい幸村とは、むしろ真逆と言ってもいい。
「誠に、とんだ思い違いにござった。斯様(かよう)な考え、貴殿にとっては無礼に──」
「それ以上言ったら、本気で叩き()るぞ、真田」
 幸村の言葉を、地を()うような政宗の声が、まさしく斬るかの(ごと)(さえぎ)った。
「さっき言ったろ? 俺はアンタに忘れられたら立ち直れねぇ、てな」
「忘れるとは申しておりませぬ。某は……」
「同じことだろ。俺みたいなお坊ちゃんは、アンタのrival失格って、そう聞こえたぜ」
「なっ! 貴殿が失格などとは! 貴殿は某より、格上のご身分にござっ──!」
「そういうのが気に入らねぇって言ってんだ。真田、もう一度聞くが、お前は俺の本質がどこにあると思ってるんだ。刀か? それとも、身分か?」
 幸村は言葉に詰まった。かつて、政宗の全身全霊を、己はどこで受けたかと思い返す。
「……槍……」
 何度も何度も、槍で感じた、政宗の魂。
 そうだ。それは、政宗の繰り出す一刀に、全て宿っていたではないか。
「だろ?」
 刀か身分か、と尋ねられたのに、うっかり、槍、と答えてしまった幸村。それでも、己の言わんとしていることはきちんと伝わったようで、政宗は口端(こうたん)を持ち上げた。
「なぁ、真田。火ってのは、小さいほうが、案外と人の役に立つ。そう思わねぇか」
「小さいほうが……」
 灯火(ともしび)や、焚き火に炭火。生活にある炎は、確かにどれも小さい。
「逆に大き過ぎる火は、山も国も飲み込んで、時には全てを焼き尽くしちまう。それでも、小さい火だけじゃ用が足りねぇことだってある。アンタも雪国の男なら、火で命を繋ぐことは多いはずだ。(よう)はどっちも使い様だろ。時と場を、間違えなけりゃいい話だ」
 小さな火も満遍(まんべん)なく国に(とも)せば、(たみ)百姓(ひゃくしょう)の力となる。火とは戦う者だけの道具ではない。
「俺は静かに魂を燃やすアンタを‘不燃’とは思わねぇ。燃え尽きてるよりずっといいぜ」
 政宗の言葉に、幸村は心がじわりと熱くなった。胸中(きょうちゅう)にこみ上げるこの感情は、例えるなら、漆黒の森の中で月に導かれた時の感謝の心と似ている。足元のみを照らす灯火とも、肌を焼くような陽光とも異なり、見失いそうになった夜道を、遠くまで静かに照らす月光。
 伊達政宗という男は、その前立てに相応(ふさわ)しい、まさに月のような男だ、と幸村は思った。
「ただ、用心しろよ。(たぎ)る炎を消すより、小さい火を消さねぇようにするほうが、加減がある分、難しいもんだぜ。実は料理が趣味の俺が言うんだから、間違いねぇ」
「りょっ……料理!?」
 声がひっくり返った幸村に、政宗は思わず噴き出し、その顔を隠すように再び兜を(かぶ)る。
「まぁな。作れって言うんなら、お前の首を取った(あかつき)に、精進(しょうじん)落としなら作ってやるぜ」
 戦の真っ只中に縁起でもない、と絶句する幸村に、政宗は竜の瞳をきらりと光らせる。
「そうなりたくねぇなら、真田幸村、お前の中にあるその火、絶対消すんじゃねぇぞ」
 火とは大きさを変えることで、時には月よりもずっと近くで人と寄り添える。己もそう()れ、と気づかせてくれた政宗に、幸村はぐっと言葉を堪えて、ただ静かに(こうべ)を垂れた。
 再び顔を上げた幸村の瞳には、遠く焚かれた燎火(りょうか)と、それを囲む互いの家臣達が映っている。その瞳に口角(こうかく)を上げた政宗の、月光に輝く前立(まえだ)てを見、幸村も小さく相好(そうごう)を崩した。

-END-

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