大和ごころ
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第5章-幸村編-① [「うたかたごころ」第5章-幸村編-]

「うたかたごころ」を初めてお読みになる方は、必ず(はじめに)をお読み下さい。

<第5章-幸村編-①の登場人物>
 吉川愛子(よしかわ あいこ)♀…25歳。主人公。Japan Air の客室乗務員。
                    かつては安芸吉川(きっかわ)の姫。
                    幼少の頃に毛利元就の友だった
 真田幸村♂…23歳。戦国一の兵(つわもの)と称された武将。
 (真田源次郎)現代では、島津の店で雑用をして働いている。
 猿飛佐助♂…29歳。真田幸村に仕える上忍。
 (長野佐助) 島津の店で厨房を手伝いながら、ホールもこなす
 伊達政宗♂…25歳。島津の店では主に厨房を手伝っている。
         眼帯はドラッグストアで買った物に替えている
 小早川秀秋…23歳。島津の店の調理師。現代では細身。
         食材へのこだわりが強く、若いが腕利きの料理人

 


「花見……でござるか」
 はい、と答えてにこりと笑う愛子に、いや、なれど、と幸村は狼狽(うろた)えた。
 現代での生活を始めて、2週間あまり。己の身の回りに関わる、風呂や洗濯、台所などの設備にはようやく慣れてはきた。しかし、異国語が不得手どころか、異国文化の知識すら皆無のまま、今日までを過ごしてきてしまった幸村は、未だにテレビの内容も半分さえ理解できなかった。ましてやひとりで出歩くような勇気はなく、店と住まいを行き来するのみの時すら、異国語を早々に覚えた佐助に供をさせるか、政宗に同伴を頼む始末だった。
「大丈夫ですよ。私がずっと一緒にいますし、それに、かすがにも声をかけてますから」
 佐助さんも誘うと言ったら、ちょっと渋ってましたけどね、と困った顔をする愛子の言葉に思わず苦笑し、それならば、と幸村もようやく表情を柔らかくする。
「戦国時代にいる時の佐助さんは凄く格好良かったのに、あいつはチャラチャラしてるだとか、馴れ馴れしく名前を呼ぶだとか言われて、流石にちょっと可愛そうなんですけど」
 それでも愛子ひとりで幸村達を連れて出歩くよりかは、ひとりでも助けになる者がいたほうが安心だろうと、同行を承諾してくれたという。佐助を散々に冷たくあしらい、幸村にも相変わらず姉のように容赦なく怒るが、こうして何だかんだと、かすがはいつも気にかけてくれる。一見きつい性格のようで情に厚いところは、前世と変わらぬな、と思う。
「本当は全員揃ってお花見したいんですけど、桜の時期ってお店も結構お客さんが入るから、慶ちゃん達とはどうしても交代になっちゃうんで……少人数ですけどいいですか?」
「某には異論はござらぬ。寧ろそのようなかき入れ時に、花見に興じていてよいものかと」
「七分咲きから満開までの間は交代でお休みできるよう、慶ちゃんがシフトを組んでくれてるみたいなんで、多分どなたも1度はお花見ができると思いますから、大丈夫ですよ」
 問題は天気ですね、と愛子は空を見上げた。まぶしそうに瞳を細め、まるで簪(かんざし)を見るように春の空を仰ぎ眺める姿。誠、天を故郷としているような姫だと思う。
「じゃぁ、待ち合わせ時間とか詳しいことは、またメールしますね」
「心得申した」
 そう言い残して、買い物へと出て行った愛子。その姿を窓ガラス越しに見送ると、幸村は厨房に入って、使用済みの皿を食洗機に入れる作業を始めた。

「あらら、大将ってば。意外と隅におけないね。逢引なんかしたら捨て駒にされちゃうよ」
 閉店後、椅子をひっくり返してテーブルに乗せていた幸村は、迎えに来た佐助に愛子から花見に誘われたことを告げた。が、その途端意地の悪い笑みを返され、思わず紅潮する。
「ああああ逢引などではない! 妙なことを言うな! お前も誘われているではないか」
「でも俺様とかすがが、いい雰囲気にもつれ込んだら、あんたも愛子とふたりっきりだよ」
「佐助……かすが殿に殺されても俺は知らぬぞ」
 毎度毎度懲りることを知らない佐助に、流石の幸村も苦言を呈す。
 因みに、現代のかすがが佐助を嫌っている理由は、単に馴れ馴れしいからだけではない。
 ── 睡眠薬を飲ませて愛子の体を調べたり、毛利さんに化けて催眠術にかけるなんて。
 かすがの気持ちは幸村にも分かる。だがそうは言っても、佐助は忍だ。しかも群雄割拠の世において、伝説の忍・風魔が唯一勝てぬ男、と世間に言わしめるほどの上忍である。
 上忍とは、仏門とはまた別の意味で、心頭滅却の境地を知る者であり、並大抵の努力でなれるものではない。故に、彼が己の欲情に流されないことは、幸村が一番よく知っている。それに、もし彼があの場になかったら、恐らくは、己がやらなければならなかった。
 が、頭では分かっていても、やはり、現代に飛ばされて、何から何まで愛子やかすがの世話になる今となっては、流石の幸村の心とて、後ろめたいことこの上ない。
「この花見の機に愛子殿には、何か詫びになる物を用意できるといいのだが……」
「……大将、あんたが愛子に申し訳ないと思うのは分かるけどさ、じゃあ逆にもしあの時、あいつの体を調べなかったら、最悪……いや多分、俺様は愛子を殺してたと思うぜ」
 久しぶりに、瞳に殺気の色を乗せて、佐助はわざと声音を低く這わせる。己はお調子者の皮を被った殺し屋である、そう幸村に釘刺すように。だが、こうして佐助が己の正体を明かしてみせるのも、お屋形様と己だけ。それを幸村がちゃんと理解し、不快に思わないことを、佐助は承知のうえでやっている。これは寧ろ、佐助にとって信頼の証。仮にもし他の者が佐助のこの姿を目撃するとすれば、それは即ち彼に殺されることを意味する。
「あぁ、分かっている。お前のしたことは、少なくとも俺にとっては正しかった。なれど、甲斐で捕らわれていた折、愛子殿が俺達に話されたこと、俺はこちらに来てやっと、全て嘘偽りなき誠のことであったと知った。何も悪意を含まずとも、無難な嘘で誤魔化すことはいくらでもできたはずだ。俺ならそうしていたやもしれぬ。だが、愛子殿は……」
 真実を話すことが、かえって自分の命を危険に晒す可能性があったにも関わらず──。
「愛子殿は、ありのままの、誠の己を貫こうとした。毛利の家紋の巾着を、盾にも使わず」
「まぁね。俺様に嘘をつかなかったことで、あの人は確かに命拾いをしたとは思うけどさ」
 その佐助の言葉に、あぁ、と幸村は頷く。佐助が殺さなかった女、というだけで、愛子は己の命の価値を、証明してみせたようなもの。故に、どの武将も、身柄を欲しがりはせよ、命を狙うことはなかった。誠実は、時に最強の鎧である、と幸村はつくづく思う。
「それに佐助。愛子殿は己が自分を貫くのみならず、こちらの世で某やお前が、なるべく偽らざる姿で暮らせるよう、常に心を砕いておいでだ。本来無関係の、島津殿や前田家の御方々、かすが殿がこれほど協力的なのは、愛子殿の人望に由来していると俺は思う」
 ここがどういう世界なのか、少しずつ分かってくるにつれ、感謝は深まる一方だった。
「詫びの意もあるが、御恩をいただく一方では、何より武士として俺の矜持が許さぬのだ。何も一国を差し上げようというのではない。どの道俺達に出来ることは限られている」
 要は気持ちだ、と諭す幸村。だが佐助は何故か、何の返事もせず黙って作業を再開した。
「佐助、何故黙る。不服か」
「いや、不服ではないけどね」
 では何だ、と訝(いぶか)しめば、やれやれ、と佐助は面倒そうにいつものため息をつくと、また作業を中断し、ズボンのポケットから財布を取り出して、それを掲げた。
「言っておくけど、今のあんたにとって米を手に入れることは、収入じゃなくて支出だからね。しかも金子がなきゃその辺から拾ってくるとか、そういうことも出来ないから」
「分かっている。生活の負担になるような出費はせぬ。それにお前の金子も当てにはせぬ」
「それじゃ飯も買えないよ。当日の花見だって、タダってわけにはいかないだろうし」
「飯……そうか! 佐助、思い出した! 俺にも用意できる愛子殿のお好きな物を」
「上田の空を君にあげるよ、とか言いだしたら、俺様、多分血吐くから」
「何だそれは。意味が分からぬぞ。そもそも上田の空は佐助、お前の物だろう」
 幸村の抱える透破(すっぱ)の中でも、そこそこ腕の立つ者は滑空や浮上の忍技を持つ。だが佐助の技はもはや群を抜いていて、彼ほど上空を自由に動く忍は他にいない。だが、
「いや……ちょ……大将……」
 口説き文句の意味だとまるで分かっていない幸村の返しに、佐助は思わず言葉に詰まる。
「Ha! アンタらそういう関係だったか」
 帰り支度を終えた政宗が、狙ってきたかのようにホールに現れてにやりと笑った。愛子との関係を聞き咎められたと勘違いした幸村が、いや、某、決して逢引などでは、と照れたように頬を赤らめて否定する。それじゃますます誤解されるってば、とこめかみを押さえる佐助に向かって、そっちの偏見はねぇから安心しな、と政宗はわざと意地悪く笑った。

 品川駅。案内を秀秋に頼んだ幸村は、佐助を伴い、政宗と共にある店へとやって来た。
「おにぎり専門店って大袈裟ぁ、と思ったけど、まさか店入るのに並ばされるとはね」
 佐助が、今しがたくぐった「銀しゃり」と書かれた暖簾を見やる。通勤ラッシュの電車に揺られ、ごった返す人波を避けて、何とか辿り着いたと思いきや、店の外で15分も並んだ。しかし、佐助に促されるように、幸村も入り口に視線を向ければ、自分達より後ろに並んでいた列が、さらに長さを増していた。平日の朝というのに、相当な繁盛ぶりである。
 甲斐で愛子を軟禁し彼女の所持品を調べていた時、この店のポイントカードを彼女の財布から見つけた。ほんの数か月前は、全く意味の分からないものだったが、まさかその店に、自ら足を踏み入れる日が来るとは、幸村も佐助も夢にも思わなかった。特に佐助は、かなり早い段階で彼女の秘密を知っていた分、その感慨の深さは幸村以上のものだろう。
「具材の種類が、山から海の幸まで豊富でござるな。それに……特上……宮城米……」
 奥州をまず農の強い国にする、そう豪語していた政宗の国の米は、四百年後の今、高級と銘打たれて輝いていた。よもや彼の実行力を、こんな所でも見せつけられようとは。
 おにぎりを好き、と言った彼女にそれを用意するにも、己は他の武将の成したことを利用しなければならないのか。紅蓮とはまた違う、どす黒い炎を己のうちに感じた幸村は、それを消し去ろうとするかのように、店員に出された目の前の水を一気にあおった。

「第5章-幸村編-②」へ

※↑で文字化けする方(携帯からお読みになる方など)は、カテゴリーから<「うたかたごころ」第5章-幸村編->→「第5章-幸村編-②」へお進み下さい。


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